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218、モモ、歌う~親しい人の元気は自然と周囲にうつります~中編

「いいんすか、隊長!? それ銀箔使われてるし、すげぇ高いもんじゃ?」


「そ、そ、そ、そんなお高いものは貰えないよ!」


 団員のお兄さんに指摘されて、桃子は盛大に戦いた。そんなお高いものを五歳児に与えちゃダメだよぅ! 肩からタスキをかけて《お高いの禁止》って主張したい。


「遠慮すんな、どうせ貰いもんだ。何度も見舞いに来てくれた礼だよ」


「でも、お高いの……」


 桃子が困り顔で呟くと、その表情に笑いを誘われたのか、団員のお兄さん達が陽気に笑う。


「ははっ、おチビちゃんは加護者に選ばれるだけあってしっかり者だな! 隊長がこう言ってるんだから、貰っちまえ、貰っちまえ!」


「そうだぞ。隊長から酒以外の物を貰えるなんて本当に稀だぜ」


「おいこら、それだとオレがどケチみたいじゃねぇか」


「ほんとのことじゃないっすか。隊長の主食は飯じゃなくて酒でしょ?」


「馬鹿野郎。ツマミも食ってるわ」


「さすが隊長、根っからの酒飲み!」


 団員のお兄さん達が笑い出す。周囲を見回すとレリーナさんが優しい顔で頷いている。いいの? 本当にいいの? そう思いながら桃子はおずおずと手の中のトランプに視線を落とす。兵士の鎧に杖が重なったおしゃれな模様が刻印されていて、銀箔がキラキラしてる。トランプから、キミ、丁重に扱いたまえよ? って言われた気がした。


「オレからの貴重な贈り物だぜ、大事にしろよ、チビスケ」


「うん! 大事に使わせてもらうね」


 悪い顔でにやっと笑うディーに頭をぽんぽんされて、桃子は躊躇いを振りきって決意の顔で頷く。どう考えてもお子様には不似合いな一品だけど、ディーの気持ちは素直に嬉しいからね! 桃子は貰ったトランプの代わりにずっと握っていたお菓子の袋を差し出す。


「これは私からのお見舞い。それとね、もう一個、この部屋の前に置かれてたのもあるよ」


「名前が書かれてなかったんで、悪いとは思いましたが中を確認させてもらいました。菓子みたいっすよ」


「ふーん? 誰だろうな?」


 桃子とジャックさんからの包みを受け取ったディーは、もう一人の贈り主には心当たりがないのか、首を捻っている。


「ディーカル隊長、それ食うの止めといた方がいいですよ。名前も書かないなんてめちゃくちゃ怪しいじゃないっすか!」


「まさかなにか仕込まれてるんじゃ……?」


「お前等なぁ、オレだって菓子くらいもらうわ。どうせ書き忘れたかなんかだろうよ。だいたい、オレにそんなもん仕込んでなんの得があるんだ? 本気で狙うならもっと場所を考えるだろ。ここじゃ、ババァに処分されて終わりだろうが」


「4番隊を恨む奴の腹いせ?」


「ありそうだな! オレ等結構やらかしてるもんなぁ、いろいろと。この間は窓ぶち割っちまった奴いるし」


「あー、あれな。鍛錬用の弓をぶん投げて渡そうとしたら、上手くキャッチ出来なくて、窓に直撃したんだろ?」


「そうそう。副隊長がそいつ等ひっ連れて団長室に頭下げに行ったんだけど、副団長の笑顔が超怖ぇことになってたらしいぞ」


「あの人、その辺の女より美人だけど、怒るとものすげぇ怖いもんな。そういう意味なら、一番手間掛けさせられてるのは副団長か? はっ、まさか副団長が犯人!?」


「キルマはそんなことしないよぅ!」


 桃子は思わずトランプを横に置いて、ディーのベッドに両手をついて頑張って乗り上げた。バル様のベッドより少し高いからね、ズルッと落ちかけたのを後ろからジャックさんが支えてくれる。ありがとう! よいしょっと無事に両膝をついて乗り上げたら、レリーナさんがさっと靴を脱がせてくれた。お世話かけます! 足が自由になったところでぺたんとアヒル座りをして、改めてお兄さんを見上げる。絶対にキルマはしないもん。って思っていたら無意識に頬を膨らませていたようで、ディーの指につつかれた。


「チビスケの言う通りだぜ。あいつはそんな手は使わず直接来る。お前等が前に壊した訓練場の柵の罰な、討伐終わったらやらせるってよ」


「うわぁ、嫌だーっ。副団長の罰嫌だーっ」


「絶対にえげつねぇのだぜ……」


「隊長なんとかしてくださいよ!」


「せいぜい反省しやがれ」


 頭を抱える団員さん達をあしらって、ディーはあっさりと袋を開くと中からアーモンドを取り出してひょいっと口に投げ入れてしまう。団員さんの心配につられて桃子もハラハラしながらボリボリとかみ砕いているディーをじっと見上げる。


「隊長、身体が痺れたり、呼吸が苦しくなったりしてないっすか?」


「いんや、すげぇ美味いぜ。この塩気が酒のつまみにちょうどいい。あー、くっそ飲みてぇ!」


「少しの辛抱ですよ。完治する頃には4番隊も帰ってきますし、皆で思う存分酒飲みましょう」


 嘆くように叫ぶディーを団員さんが笑顔でフォローしてる。でも、よっぽど美味しかったみたいで、袋の中に何度も手が消えてく。どんな味なんだろうね? 好奇心に駆られて、口を動かすディーを見上げていると、唐突に豆を1粒摘んだ指が口元に差し出される。


「口開けてみろ、チビスケ」


 言われるがままにぱかっと口を開くと、アーモンドが桃子の口の中に入ってくる。そのままポリポリ噛み砕くと、蜂蜜の風味がふわっと広がる。塩と、胡椒かな? スパイシーな調味料も交じってる感じだねぇ。それが甘じょっぱい味になっててとっても美味しい。味が濃い目だから喉も渇くだろうしお酒も進むんだろうね。私はジュースが美味しく飲めちゃいそう! 






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