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22、モモ、お子ちゃまドレスを装着する~一歳児はだっことお膝が居場所なの?~

 ぶかぶかになってしまった五歳児用の寝間着を脱ぎ捨てると、シルクの手触りがする小さなドレスがさらにちんまりした身体に当てがわれた。


「モモ様、私心臓が壊れそうです」


 レリーナさんが可愛く染まった頬を手で押さえている。うん、似合うってこと? でもね、悲しいの。え、何故って? だって成長するどころか退化してるんだもん! 昨日食べたものは何処に行ったんだろうか。食事は成長を促すものじゃなかったのか。桃子の疑問は尽きない。そして、悲しみも尽きない。


「ありぃきゃちょ」(ありがとう)


 口を開けばこれだよ! だからなるべく口を開かないように無言を試みる。代わりに目で訴える。お願い、バル様の元まで運んでください。なんかこう、以心伝心の如く、伝われーっ。熱心に見つめ合う二人が完成した。テレパシーは双子の特権だよね。ちっとも伝わってないもよう!


 仕方ない。桃子はなるべく正しく発音出来るように、ゆっくりと口を開いた。


「だっ、きょ!」(だっこ!)


 はい、駄目でしたー。桃子は滑舌を放棄した。レリーナさんが恭しく抱き上げてくれる。その熱視線がビームとなって顔が焦げそう。


「抱きしめても、よろしいでしょうか?」


「……ひゃい」(……はい)


 美人さんのお願いは断れないよね。桃子はこっくりと頷いた。けれど頭が重くてふらふら揺れる。酔っちゃう前に、レリーナさんにふんわり抱きしめられて、大きな胸で頭も支えられる。素晴らしいお胸ですね。いいなー、二十歳までは私も希望を持ちたいよ。牛乳飲んだら少しはおっきくならないかなぁ。それなら頑張って毎日飲むのにねぇ。


「では、戻りますね」


 桃子がそんなことを考えていると、満足してくれたのか、レリーナさんは桃子の背中をしっかりと手で支えて歩き出す。ダイレクトに揺れが伝わってくる。駄目、また眠くなっちゃうよ。パンをミルクで煮たものを頂いた桃子は、お腹が膨れているのだ。


 眠気を堪えて目を強く瞑っていると、扉を開閉する気配がして、震動が止んだ。目を開ければ、桃子の身体はバル様の腕に移される。


「バルクライ様、モモ様のご準備が完了いたしました。こちらでよろしゅうございますか?」


「十分だ。これなら貴族の幼児と遜色ない」


 赤ちゃん用の白いドレスは、二の腕に当たる部分が絞られており、少し広い胸元にはお花の装飾がされていた。長さは、くるぶしが見えるくらいで、ドレスは下にいくほど僅かに膨らんでいる。


 胸元のお花には小さな光り物がついていた。聞かなくてもわかるよ。これ本物の金だよね。それも、桃子には不相応過ぎるほどお高いやつだ。いや、うん、着なさいと言われたら着るけど。全身が震えても着るけど。


「モモ、緊張しなくてもいい。オレが話す」


 バル様、合ってるけど違うの。ミラさんのことも心配なんだけど、この光り物がね。光り物が……。これはメッキ。これはメッキ。これはメッキ。口裂け女を撃退するおまじないのように唱えておく。だけど困ったことに、全然落ち着けない。


 バル様の腕に収まったまま、玄関を抜けていくと、馬車が待っていた。今回はこれで移動するようだ。ロンさんが馬車の小ぶりな扉を開く。バル様は頭を屈めると、馬車の中に桃子を抱えたまま入って行く。中は十分くつろげるだけのスペースがあった。桃子はバル様の膝の上に座らされて、カイが向い側に腰を下ろす。


 扉が閉まる前にロンさんが渋い声で、丁寧に注意を述べる。


「それでは、グロバフ様のお屋敷に出発いたします。少し揺れますので、バルクライ様はモモ様から手をお離しにならぬようにお願いいたします」


「あぁ」


「カイ、モモから目を離さずに」


「了解、副団長」


 モモは行ってきますのかわりにキルマ達に手を振った。ロンさんがにこりと微笑んで、奇麗な一礼をする。


「では、短い旅をお楽しみください」


 扉が静かに閉じられると、ぴしりと音がして、ガラガラと馬車が進み始めた。



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