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215、モモ、緊張が飛ぶ~自分のお部屋って心と身体が自由になる空間だよね~後編

「その事実を知って、母上はオレを連れてバルクライに会いに行った。そして、父上に『この子は今日より私の子として育てる!』と宣言されたんだ。それ以後は一緒に学ぶことになった。しかしなぁ、バルクライの方が飛び抜けて優秀だったから、オレの方が必死に追いかけることになったんだよな。最初の頃は弟に勝てない悔しさばかり感じていたんだが、母上の扱きに共に耐える内にそんなものはどこかに飛んでしまった。オレが倒れそうになればバルクライが、バルクライが倒れそうになればオレが、助け合いながら教養と剣を学んできたんだ」


「2人で頑張ったんだねぇ。王様に堂々と宣言しちゃう王妃様もすんごく格好いいと思う!」


「母上は喜びそうだが、モモはあの方を目指しちゃいかんぞ。まず鍛錬が厳し過ぎて死んでしまうからな」


「そ、そんなに……?」


「モモのやわっこい身体ではとても持たん。オレもバルクライも、何度気を失ってぶっ倒れたかわからんくらいだったからなぁ」


 真顔で頷かれたので、桃子はスプーンを落としそうになった。倒れちゃうほど厳しい鍛錬なの!? 心の中の五歳児も大慌てだ。2人が倒れている姿を思い浮かべて、思わず白いタオルを片手に駆け出しそうになっている。


「そんなに厳しい鍛錬をしてたんだね。さっき話してた王妃様に扱かれたっていうのは、もしかしてそれが嫌でサボっちゃったの?」


「いいや。今はさすがに倒れることはないし、オレはもともと、部屋で執務に励むより剣を握る方が好きなんだ。ルーガ騎士団師団長を務めるバルクライの方が腕は上だが、オレも母上に鍛え上げられた口だからな、体を動かさんとうずうずしてくる。ただなぁ、オレの仕事は剣より、口を使うことの方が多いんだ。それと書類だな。他国との交渉ごともあるし、剣を振るう時間はあまり取れないんだ」


「国の為に頑張って働いてくれてるんだねぇ。いつも御苦労様です!」


「嬉しい言葉だ、ありがとう。国が富めば人の心が豊かになる。人の心が豊かになれば、病める者も減る。モモみたいに幼い子供を捨てる親もまた減るだろう」


 ぺこりっと頭を下げたら、ジュノ様が優しい目を向けられた。国を思う姿に王様の姿が一瞬だけ被って見えた気がした。やっぱりこの人は王様の資質っていうのかな? そう言うものがあるのかもね。桃子はなんとなくそんなことを思った。


「ジュノ様のお仕事って国にとってすんごく大事なんだろうね。最近はどこの国の人とお話ししたの?」


「獣人国方面だな。そう言えば、あちらと貿易交渉に向かう途中で破壊された崖間を通ってな。モモにも関係ある話だから伝えておくが、……おそらくその崖こそが、モモに妙なちょっかいをかけているフィーニスという男が封じられていた場所だとオレは推察している。破壊のされ方があまりに大きくて人の技とは思えないこと、そして市民から報告されたタイミングから見てまぁ、間違いないだろう。今は父上の指示で調査が行われているから、しばらくすれば報告が上がるはずだ」


「フィーニス……このまま悪いことをしないでくれればいいのにね」


 それはあまりにも希望的な観測だった。自分で願いを口にしながら、心からそうは信じられないでいるのだから。可能性の低さに、願いを口にすることさえ躊躇いが滲んでしまいそうだ。


「これから先、再び奴が現れてこの国をかき乱そうとするかもしれない。だが、今度は追い払うだけでは済まさん。なぜなら、オレと母上も参戦してやるつもりだからな!」


「参戦しちゃうの!?」


「するとも! だからモモは安心して後ろで見ているといい。剣の達人の母上と、その弟子であるオレとバルクライ、更に城の騎士、ルーガ騎士団、請負屋、少し数えるだけでもこれだけ戦える者がいるんだぞ。おぉ、その時はついでに父上も引っ張ってくるとしようか」


「それじゃあ、私は応援団長になるの! 皆のことガンバレーっ!! って、後ろでたくさん応援する」


「あぁ、頼むぞ」


 笑い話にしてくれるジュノ様の優しさに甘えて、桃子は元気よくそう返す。イメージはこうだ。鉢巻を巻いた桃子が、身の丈ほどもある巨大な団扇を持って仁王立ちしている。その団扇には大きく達筆な文字で【勝利】と書かれていた。皆のピンチにはこれを振り回します! ……これはさすがに冗談だけど、応援団長は半分くらい本気だよ? ただし、桃子の応援には軍神様の降臨も含まれちゃうかも。笑っているジュノ様に、桃子は心の中で密かにそう付け足した。




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