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214、モモ、緊張が飛ぶ~自分のお部屋って心と身体が自由になる空間だよね~中編その二

「美味しいねぇ。メイドさんがこのプリンをすぐに持って来てくれたけど、作ってくれた人はいつから準備してるのかなぁ?」


「城の料理番は常に菓子を用意できるように準備しているんだ。オレも母上も甘いものをよく食べるからな」


「食べなかったものはどうなるの?」


「侍女達の口に入るか、翌日のデザートに回されることになっているぞ。母上が昔、オレ達が食べなかった菓子はその日の内に廃棄されていると知って思案されてなぁ。オレの祖母でもあられるルクルク前女王はとても厳しい方で、母上は甘い物を滅多に食べられなかったそうだ。それで、そんなもったいないことをするのなら、と命じられた」


「いい考えだと思うよ。傷んじゃったなら廃棄しても仕方ないけど、まだ食べられるのに捨てちゃうのはもったいないもんね。食べものの神様に怒られちゃうよ」


「そうだな、豊穣の神がお怒りになられるといかん。しかし、贅沢をすることが当然の貴族出の側室方にはその考えが受け入れられなかったようだ。味が落ちたものを喜んで食べるなど、王妃のすることではないと随分と陰口を叩かれた。その上、側室方の一人が父上の元に、ナイル王妃は王妃としての品格に問題があるのではないか? と言いつけてな」


「そんなことを言ったの!?」


「あぁ。驚くだろう? それが母上の逆鱗に触れたようでな。母上はそのご側室に前日出さなかったデザートを何も知らせずに飾りを変えて出せと料理番に指示された。その方は何も知らずに出されたデザートを食べて、料理番にいつものように聞かれたらしい。『本日のデザートはお気に召しましたか?』と。何も知らない側室は『気に入ったからまた出して』と言った」


「わぁ……そこで王妃様の登場?」


「その通り。颯爽と母上がご登場なされた。そして、笑顔でこうおっしゃるわけだ。『お前が喜んで食べたものは前日残されたデザートだ。味の違いはないだろう? 料理番が趣向を凝らして作ってくれたものだからな』と。こう言われては反論は出来まいよ。なにしろ、味の違いがわかっていなかったことが、露呈してしまっているのだからな。その方は結局それから間をおかず王宮を去られたよ。よほど母上が恐ろしかったらしい」


 まるでドラマのような女同士の戦い振りに、桃子はプリンと一緒にぷるぷる震えた。恐ろしいっ! つまり、味の違いもわからない者が文句をつけるんじゃありません! ってことだよね。王妃様の逆襲はびっくりするほど鮮やかなものだけど、桃子には到底真似できそうにない。王妃様は剣だけじゃなくて、女同士の戦いも強いんだねぇ。ルクルク国の女の人って、みんなこんな風に強いのかな? いつかバル様達と一緒に見に行ってみたいね!


 再びスプーンでプリンを削って食べながら、まったりと甘味を楽しむ。そんな桃子と対照的に、ジュノ様はさくさくプリンを食べている。思い切りのいい食べ方だ。桃子は再びジュノ様に話を向ける。


「昔のバル様ってどんな子供だったの?」


「今と気質はそう変わらんな。無口であまり感情を出さない子供だった。しかしそうさせたのは当時の教育者達だ。母上はバルクライがある程度分別がつく年齢になるまであえて接触を控えておられたのだそうだ。それは実の母君、リリィ様が実の母と認識されるように配慮されたがゆえのことだったが、それをいいことに、バルクライの教育者達はこぞって我が弟を庶子と嘲笑ったらしい」


「酷いね……」


「まったくだ。いかにバルクライが出来の悪い生徒であるかをあげつらっては、教えていない問題を課題として出し、それが出来ないとなれば叱責を繰り返す。そんなことが続けば普通は嫌気が差して、父上に申し出て教師を変えてもらおうとするのが子供らしい選択なのだろうが、バルクライは違った。書物を読みあさり、独学で教師達よりも博識になってみせた。そして、父上にもう教師は必要ないと伝えたのだ。彼等より自分の方が学力が上だからと」


 小さなバル様が一人で本を読みあさり、黙々と勉強している様子を思うと、胸が痛くなる。ただ、母が貴族ではなかったというだけで差別され、第二王子様なのに相応の扱いをされてこなかったなんて。もしこの場に子供のバル様が現れたら、桃子は迷わず抱きついて、ここに味方がいるよ! って伝えただろう。





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