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207、モモ、救出に向かいたがる~不器用な人は言葉の真意も本心もなかなか見えないもの~中編

「……少し前に、我々に差し入れを下さいましたね。これは、そのお礼とでも思って頂ければ結構です」


 ミスター無表情なお兄さんの言葉に、桃子は思い出す。そう言えば、大量のお菓子のお裾わけを護衛兵士の人達にもしたんだっけ。直接渡すのはちょっと勇気が出なかったから、レリーナさんに頼んで手配してもらったのである。


 他には、以前お世話になったエマさんや、孤児院の子供達、バル様のお屋敷にも送った。こちらは直接渡そうと思ったんだけど、レリーナさんが手配してくれるって言葉に甘えさせてもらったんだよね。それで、残りは桃子とジャックさんとレリーナさんを含めたメイドさん達皆で分けておいしく頂いた。皆が喜んでくれたから私も嬉しかったよ。やっぱり、美味しいものは皆で食べるのがいいね! ミスター無表情なお兄さんの考えがちっとも読めない。本当はどう思ってるんだろう……?


「あの、そのままじゃ、お兄さんが風邪ひいちゃうから、よければお部屋に入って? タオルなら貸せるからね、着がえた方がいいと思うの」


「いえ、職務中ですので」


 きっぱり断られてしまう。すんごくお仕事に熱心な人なのかもしれない。だけど、すぐに終わるお仕事ならともかく護衛の人は、朝、昼、晩、深夜、のタイミングで交代してるから、このままだとあと数時間はミスター無表情なお兄さんは水浸しでお仕事を続けなきゃいけないことになる。そんなの身体に悪過ぎるよね? どう言えば着がえてもらえるのか困っていると、もう一人のお兄さんが助け舟を出してくれる。

 

「加護者様、それはご命令ですか? ご命令ならば従いますよ」


「え……あっ、うん! そう、ご命令なの!」


 思わずそのまんま返しちゃったよ。生まれて十六年、命令なんか一回もしたことないから心の震えがまる出しになってます! 加護者なんて言われても威厳もなにもあったもんじゃないよぅ。


「ぷっ……失礼しました。では、ユノスは室内でタオルをお借りするようなので、私は彼の着替えを用意するため、少しこの場を離れましょう。それでもよろしいですか?」


「おい、なにを勝手に」


「うん! お願いするの」


 ミスター無表情なお兄さんこと、ユノスさんが反論する前に桃子はぐいぐいと話を進める。断る間を持たせちゃいけない。このままじゃ、絶対に迫力負けするもん! 感情を隠した無感動な目がぎろりと桃子を見下ろす。やっぱりキャンセルで! って動きそうになる口を我慢して、桃子は力強く言い渡す。


「め、命令なの! ユノスさんは私のお部屋に入ってタオルを受け取って!」


「……わかりました。ご命令ならば従いましょう」


 ユノスさんは諦めてくれたのか重々しい口調で答えると、扉を開いて入室してくれる。その後ろで、もう一人のお兄さんが雨を避けながら離れていく。桃子も動かなきゃとばかりに、さっそく洗面所にタオルを取りに走る。


 洗面所の棚には、五歳児の桃子の身長に合わせてくれてくれたのか、一番下の棚にふわふわなタオルが敷き詰められていた。


「バルチョ様はここで待ってて。あんなに濡れちゃってるなら1枚じゃ足りないよね。よしっ、全部持っていこう!」


 桃子はバルチョ様を上の棚に置くと、代わりに両手いっぱいにふわふわタオルを抱えて、ちょっと背筋を反らした体勢でよいしょよいしょと運んで行く。重くはないけど嵩張るよねぇ。


 お部屋に戻るとユノスさんは無表情で突っ立っていた。薄暗い部屋の中で見ると陰影が曖昧でちょっと怖い。知らないまま部屋に入ったら、ものすんごく苦手な頭に【お】がつくアレと勘違いすると思う。一応、念のために、ちらっと両足の存在を確認する。うむ、ちゃんとあります! 安心したところで、ユノスさんに両手に抱えたタオルを押し上げる。


「どーぞ!」


「お心遣い、有り難く」


 ユノスさんは大量のタオルを順番に受け取ると、控えめに頭と体を拭き始める。桃子もお手伝いしようと、後ろに回って濡れたマントをタオルでぽんぽんしていく。じんわり染み込むタオルの吸収力に驚きながらぽんぽんを続けていると、ユノスさんの動きが止まっていることに気付く。見上げると無表情ながらも、その顔にはどこか困惑が滲んでいるような気がした。



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