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203、モモ、おすそ分けをする~美味しいものは皆で食べると幸せが増し増しになる~後編

「うん。お礼のお礼、するから」


「その時は一緒にティータイムを過ごしましょう!」


 桃子の言葉にゆっくりと頷きが返る。次の約束が出来ることが嬉しい。それだけで心がわくわくしてくる。残念だけど、そろそろお城に帰らなきゃ心配されちゃうもんね。お昼過ぎの鐘三つには帰ると伝えてあるのだ。


「用事も済ませたことだしそろそろ帰ろうか。レリーナさんがきっと待ってるぜ」


「はぁい。お邪魔しました」


「また来いよー」


「ジャック、今度は一杯やろうぜ」


「護衛の仕事しっかりな」


 おじさん達の声に見送られて、桃子はジャックさんと一緒に請負屋を出る。通りの隅に寄せて止められた馬車に乗り込もうとした桃子は、そこである人を発見した。あの後ろ姿は、間違いない!


「リジー!」


 声が届いたようで、リジーが足を止めて振り返る。モモは乗りかけていた馬車から降りて走り出す。──が、その足が地面に着くことはなかった。ジャックさんに抱えられて、パタパタと足だけ動かしていたのである。うわーんっ、またしても!


「こらっ、モモちゃんが勝手に動いたら護衛にならないだろう?」


「はぅっ、ごめんなさい。 リジーがいたからつい……」


 護衛されてる事実をコロッと忘れてしまっていた。考える前に動いているのは、五歳児の習性? いつも止まって考えるのが難しいんだよねぇ。その前に身体が走りだしちゃってる。だからこうやって捕まえられるのも珍しくないのである。桃子とジャックさんが顔を突き合わせて話していると、リジーが桃子に気づいたようで、こちらに来てくれる。しかしジャックさんの腕に抱えられてる桃子を見ると、その顔色が変わった。


「ちょっとあんたっ、モモになにしてるのよ!」


「へっ?」


「待って! オレ人攫いじゃないから! この子の護衛だから!」


 あらま、そんな勘違いをされてたんだね。いきなり怖い顔されたからびっくりしたよ。ドスドスと音が聞こえそうな荒々しい足取りが止まる。まだ疑わしそうな灰色の目でジャックさんを眺めると、桃子に聞いてくる。


「……モモ、本当?」


「本当だよ! 紛らわしいことしててごめんね? この人は新しく護衛についてくれているジャックさん。前に居たレリーナさんが忙しいから、今日はこの人が護衛をしてくれてるの」


「これでわかってくれたかな?」


「ごめんなさい! 私ったら勘違いしちゃって……」


「いや、いいんだ。傍から見れば、そう見えちゃうよなぁ。オレとモモちゃんみたいな組み合わせってなかなかないからさ」


 幼女と熊さんの組み合わせ? ファンシーな絵面が思い浮かんで、ほのぼのしてくる。謝るリジーをすんなり許すジャックさんは心が広い! レリーナさんもこういういい所を見たら好きになるんじゃないかなぁ? 私? もちろんジャックさんのことは好きだよ! レリーナさんと同じようにね。 


「リジーが気づいてくれてよかったよ。バル様達と一緒に会ったのが最後だから、久しぶりだねぇ。私は小さい用事で請負屋さんに行ってたんだけど、リジーは今からお仕事?」


「いいえ、終わったところよ。お金を請負屋で受け取ってきたばかりなの。これから一度宿に戻る予定よ」


「それならちょうどいいね。良かったら、お菓子とジュースを貰ってくれないかなぁ? たくさん貰っちゃってとても食べ切れないから、持って行ってくれると嬉しいの」


「気前のいい知り合いがいるのね。そういうことなら頂くわ」


 リジーの言葉に桃子は喜んでジャックさんを見上げる。そろそろ地面に下してもらってもいいですか? 目で伝えると意外と伝わるものなのか、ジャックさんの太い腕から解放された。私は自由だーっと馬車に飛び込んで、お菓子箱を手に持つ。ジュースの瓶は桃子の身長の半分くらいはあるので、熊の護衛さんにお任せして馬車を再び出る。表彰状を授与する校長先生になった気分でリジーにお菓子を贈呈する。同時にジャックさんも馬車からジュースを取り出して渡してくれる。


「どうぞ!」


「ありがとう。ところでモモちゃんはイリマータは、だ、団長さんと過ごすの?」


「イリマータ……春祭りのこと? うんっ、バル様とキルマとカイと一緒に周ろうねって約束してるよ」


「そ、そう……」


 どうしたんだろうね? 顔を赤くして俯いちゃった。あっ、もしかして……。


「キルマと一緒に周りたいの?」


「えっ? あっ、うん……実はそうなの!」


 なぜか気まずそうな顔で頷くリジーに、桃子は嬉しくなった。キルマとリジーが仲良くなるのはいいことだよね! きっとカイも喜ぶよ。そう思い、にこにこしながら提案する。


「それならリジーも一緒に行けばいいよ。二人きりが気まずくても皆が一緒なら会話には困らないもん。ジャックさんもよければどうかな? レリーナさんも誘ってみるよ?」


「いいのか、モモちゃん!?」


「私はもちろんいいよ。3人なら、バル様達も駄目とは言わないんじゃないかなぁ? ジャックさんがレリーナさんのこと好きなのは知ってるもんね。私でよければ協力するよ。護衛さんになってくれて嬉しかったから、そのお返し」


「ありがとう! モモちゃん、君はオレの恋の天使だ!」


「うぶっ、つ、つぶえゆのっ!」


 いきなり抱きしめられて、桃子は筋肉質な胸に溺れた。レリーナさんの柔らかなお胸とは比べ物にならないくらい固いっ! そんな桃子にようやく気付いてくれたのか、慌てたように救出される。


「わっ、ごめんよ! 感動のあまり抱き潰しちまった。モモちゃん、大丈夫か?」


「ふぅーっ、押しつぶされるかと思ったの。それで、リジーはどうする? 迷ってるならお返事は今度でもいいよ?」


「ううん! 一緒に行きたいわ。そうよね、モモと一緒なら、あの人(・・・・)ともあんまり緊張せずに話せるかも……」


 なぜか、どんどん語尾がだんだん小さくなっていくリジーに桃子は首を傾げながらも頷いた。楽しみがまた1つ増えたよ! 早くバル様達が帰ってこないかなぁ。




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