202、モモ、おすそ分けをする~美味しいものは皆で食べると幸せが増し増しになる~前編
おすそ分けのお菓子とジュースを両手に持とうとして、瓶の重さに負けた桃子は、口を尖らせながら請負屋さんを訪問することになった。お子様の身体は大変不便である! 思わず、いつぞや演じた軍神様が降臨しそうになった。
「あら、ジャックじゃない! 頭目から別口に仕事を受けているって聞いたわよ? その仕事は終わったの?」
「いや、今もその仕事中だよ。フェナンさんは居るか? オレとモモちゃんが来てるって伝えてほしんだけど」
「えっ、加護者の方も一緒なの? どこに……あ、あら、失礼しました! すぐにお呼びいたしますね」
受付カウンターの下にいたから桃子の姿が隠れていたようだ。いつかと同じように背延びして指先をぴょこぴょこ出してみる。ここにいるよ! そのアピールで見つけてもらえたようだ。お姉さんは受付を飛び出していく。
「やっぱモモちゃんの立場は特別なんだなぁ。あの人、いつもは目の前で喧嘩が始まろうが、依頼にケチつけられようが冷静に対処してるんだよ。あんな姿は初めてみたな」
そんな人を無駄に慌てさせてしまったことを知り、桃子は加護者という肩書の重さを今更ながらに意識する。ちょっと気遅れしちゃうよぅ。加護者って言っても今は五歳児だよ? 偉いのはあくまでも軍神様であって、私は添え物くらいに思ってもらえればいいと思うんだけどなぁ。なんか、周囲がちょっぴりざわついちゃってるし、変装してくればよかった? 最近ピティさんの名前が活躍してる気がするよ。
会合の時はドレスで来てたから、普通のお子様服ならバレないバレないって思ってたんだけど、受付のお姉さんの反応でバレちゃったみたい。さざ波のようなざわめきが起きちゃってるよ。そこで突如、陽気な声が上がった。
「おっ、誰かと思えばジャックか! あれ、その子は加護者のお嬢ちゃんだろ? なんでお前が一緒にいるんだ?」
どやどやとやってきたのはおいちゃんと一緒にいたおじさん達である。ジャックさんも当然顔見知りだ。
「あんた等こそ討伐には出なかったのか?」
「頭目に請負屋にもなんかあった時の為に、待機する奴等が必要だって言われてよぉ、オレ達が残ったんだ。お前の方は?」
「いやぁ、縁があってさ、オレ今この子の護衛をしてるんだ」
「お前が護衛!?」
突然の大声に腕の中でお菓子箱が飛び跳ねた。床に落とさないように慌てて持ち直そうとしたら体が後ろに傾いた。そんな桃子をジャックさんが肩を押さえて支えてくれる。
「おっと、モモちゃん大丈夫か? ──そんな大声出すほど驚くことか? 大げさだなぁ」
「いや、驚くだろ!」
「ルイス以外には一切懐かずにいつもギラギラ目ん玉を光らせてた奴がいきなり加護者様の護衛なんつー重役に付いてんだぞ!?」
「コネか!? コネを使ったのか!?」
「あるように見える? オレ、いつの間にそんな大物になったっけなぁ?」
「ないな」
「あぁ、絶対にない」
「まぁ、ないんだけど。偶然拾ってもらえたんだよ。この子の保護者の方にさ」
「オレも捨てられてたら拾ってもらえねぇかなぁ」
「馬鹿言え、お前より若いオレの方がまだ可能性があらぁ」
「お前等、たかだか一歳違いで醜い争いをするなよ。ジャック、良いとこに拾われたんだなぁ。以前とは表情が全然違うぜ」
「運のいい奴だ! お嬢ちゃん、こいつちゃんと働いてるか?」
「うん! ジャックさん、すごく働いてくれてるの。今もほら、私が持てなかったジュース瓶持ってくれてるもん」
「そうかそうか。遠慮なくビシバシ扱き使ってやってくれな」
ジャックさんの方が年下だからおじさん達に可愛がられてる感じがするね。桃子にも話を振ってくれたので笑顔で答えていると、奥の方からフェナンさんを連れたお姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました」
「どうして、集まってるの?」
「いやいや、親交って奴を深めてただけさ。なっ、お嬢ちゃん」
「深めてたの!」
「……そう。用って、なに?」
「このお菓子とジャックさんの持ってるジュースを沢山貰ったのでおすそ分けに来ました!」
「これ、評判の店のもの。いいの?」
こくこく頷いて、ずいっと両手で差し出すと、心なしかキラッと輝いた目がゆっくりと瞬いて、受け取ってくれる。ジュースも一緒に抱えると、カピバラみたいにのんびりした雰囲気がほわっと一瞬緩む。ぼぅっとした表情からはわかりにくいけど、喜んでくれたのかな? 美味しい飴を貰ったから、そのお返しに渡したかったんだよねぇ。
「ありがと。大切に食べる。……寄ってく?」
「今日は時間がなくて無理ですけど、また来てもいいですか?」




