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197、モモ、一人遊びを考える~顔が赤くなるのは恋する人だけじゃないよ~後編

 バル様、カイ、早く帰って来てー! 心の中で叫んでおく。プレゼントありがとう! って伝えたいし、一緒にご飯も食べたいよねぇ。それに、ご苦労さまでしたって、マッサージもしてあげたいし、春祭りも一緒に見に行きたいし、夜はバル様と一緒に眠りたい。簡単に考えつくだけでこれだけやりたいことが溢れてくる。どれもこれも、バル様達としたいことだらけだ。


うーん、欲張りになっちゃってるなぁ。本能に忠実な五歳児は自由過ぎて、引っ張られると十六歳の桃子の心も隠すことがなかなか出来なくて困っちゃうよ。こんな風に自分が誰かの帰りを心待ちにすることがあるなんて、元の世界での生活を思い返すと本当に大きな変化だよねぇ。


 ズボンの裾を握らせてもらいながら進んでいると、2番隊って彫られてる扉の前で足が止まる。コンコンとノックしたケティさんが名乗る。


「6番隊隊長のケティです。街の巡回の引き継ぎに来ました」


「……開いてる」


 声が返ってきたけど、なんかドロッとした印象の低い声だ。ご機嫌斜め? お子様の勘がそう言ってる。落ち着かない気分でケティさんの隣でそろそろっと入室すると、見るからに不機嫌そうなトーマが苛立たしげに顔を上げていた。部屋の中にはトーマだけだけど、机はもう一つあるから副隊長さんがいるのかなぁ?


「ケティさんはわかるけど、なんでそいつも一緒にいるんだ? こっちはくそ忙しいってのに遊びに来てるのか?」


「そ、そんな、違うよ? モモちゃんは、副団長のお手伝いをしてくれてるの」


「ていしゅしゅぶつを下さい!」


 不機嫌マックスの様子に緊張したら、噛んだーっ! こっちは恥ずかしさマックスだよぅ。なんで、こうも大事なところで噛んじゃうの? これじゃあ、やっぱり役には立たないなって思われちゃう。桃子は両手を前に差し出して、ていしゅしゅぶつを求めたポーズのまま固まった。誰か、このままセメントで固めて! もういっそ彫像になりたい。恥ずか死ぬ。無言のまま椅子を立ったトーマが、紙を差し出してくれる。任務、半分完了!


「……ほら。用が済んだら出てけ」


「ト、トーマ君、そんな言い方しなくても……」


「あんたこそその態度止めろよ。隊長なのに、いつもおどおどしてるよな。それじゃあ、周りからも舐められるんじゃねぇの」


「あ、ごめんなさい……」


 私のせいでケティさんにまで飛び火しちゃった!? 落ち込んだように赤かった頬から血の気が引いてく。刺々しい言葉に、私もケティさんもハリネズミにされちゃった気分。直球だから心が痛くなる。悲しそうな顔をしているケティさんに、桃子の中で戦いのゴングがカーンと鳴った。


「言いすぎだと思うの!」


「モモちゃんっ」


 ジャックさんが止めるように呼んでくれるけど、桃子は止まらない。ケティさんの潤んだ目を見てなんにも言い返さないのは、男が、じゃなくて、桃子がすたるってものだよ!


「はっ、ガキに庇われてるような隊長って他にいないだろ」


「むーっ、皆と協力するのは悪いこと? 誰かを守ったり庇ったりするのは、その人のことが大事だから、好きだから、そうしたいって相手を思う気持ちの表れなんじゃないの? 私はケティさん好きだもん! だから意地悪トーマからも庇うもん!」


 ふんすっと鼻息も荒くトーマを睨んでみる。んぐぐぐぐっ、目を三角、目を三角と思いながら釣り上げていると、トーマの不機嫌そうな眼が見下ろしてくる。睨めっこなら負けないよっ! 数秒睨めっこして、先に目を逸らしたのはトーマだった。勝った! トーマは執務机に戻りながら、背中越しに言い捨てる。


「あぁそうかよ。──あんたがそのままでいいなら、いくらでもぬくぬく守られてろ。自分のせいで誰かが死ななきゃいいな」


「トーマのハリネズミ男っ!」


「ハリネズミ? なんの騒ぎだ?」


 そう言いながら、ノックなしに入ってきたのは、三十三、四くらいの男の人だった。トーマより背が高く、体格はジャックさんより筋肉に厚みがないけど肩幅が同じくらいにあるから身体が大きな印象を受ける。くすんだ金髪を掻き上げて後ろに流したような髪型で、細められた目は鋭く独特の威圧感がある。


「ファルスさん……」


「あぁ、ケティか。次の巡回の引き継ぎ? 悪いね、こっちから出向ければよかったんだが、うちの奴等に集合かけててな。で、その子は? まさかお前の子供じゃないよな?」


「えぇっ!? ち、違いますよ! ほら、ルーガ騎士団が討伐任務に向かう前にお城で決起がされたじゃないですか、その時に加護者として立った子です。モモちゃんって言うんですよ。今日から副団長のお手伝いとして本部に来てくれてるそうで」


「はーん。あの時の子か。オレはルーガ騎士団2部隊副隊長のファルス・ドクだ。トーマ、お前こんな幼い子と言い合いなんかしてたの? いくらなんでもそりゃねぇだろ?」


「別に言い合いなんてしてない。そいつが勝手に突っかかってきただけだろ」


「その態度が原因だろうが。ほんと悪いね、こいつ、口も態度も最悪だが悪気はないんだよ。いっつも相手の痛いとこもズバズバ指摘するから団員からも反感を買うことが多くてな。もうちょっと言動に気をつけろって言ってはいるんだが」


「これがオレなんで」


 しらっと顔を逸らすトーマには直す気はなさそう。これじゃあさぞかし、団員さんを逆上させていることだろう。苦笑してるファルスさんには大人の余裕がありそう。もしかして、この人が2番隊の以前の隊長さんなのかもね。トーマの前でそれを聞くのは悪い気がして、桃子は無言で見上げた。


「なんだよ、チビ。なんか言いたげだな?」


「言うことなんかないもん!」


 ぷいっと顔を逸らして頬を膨らます。まだ怒ってんだかんね! と見せておくと、副隊長と名乗ったファルスさんは自分の執務机に戻ってなにやら引き出しをごそごそし出す。なにしてるのかなぁって見ていると、桃子たちの前に戻ってきて小さな包みを3つ分渡される。


「これ、うちの隊長の詫びってことで。ケティとそこの人もどうぞ。中身は菓子だからな、早めに食えよ」


 桃子は渡された包みからファルスさんを見上げる。この人も甘党? その視線に気づいたのか、さっきより柔らかな目が向けられた。トーマのフォローは大変そうだけど、頑張って! 思わず応援する。


「ありがとう!」


「これに懲りずにトーマと仲良くしてやってくれ」


「……考えるの!」


 これはすぐに、はいって言えないよねぇ。桃子が正直にそう答えると、くしゃっと笑われた。目じりに皺が寄って印象が柔らかくなる。威圧感もどっかに飛んでるし、ファルスさんとなら仲良く出来そうなのに。トーマもこの人当たりの良さを見習うべきだよ!





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