194、モモ、摩擦を気にする~異世界に履歴書があったら特技に肩もみって書きたいの~前編
「待っていましたよ。よく来てくれましたね、モモ」
麗しい微笑みで歓迎してくれたのは今日も麗しい顔立ちのルーガ騎士団副師団長であるキルマであった。今は背が小さいからね、扉の下部分をコンコンってノックしてたら、護衛としてついてきてくれたジャックさんが私の代わりに開けてくれた。
いつも一緒だったレリーナさんは今日は護衛を外れている。美人な護衛さんからワイルドな護衛さんにタッチ交代したわけだけど、レリーナさん、私が馬車に乗り込む時に、すんごい残念そうな表情をしてた。ジャックさんがオレのせいか!? って焦るほど。
だけど今回ばかりは仕方ないよねぇ。メイドさん達もお城の仕組みとかまだ慣れてないから、少しの間はそのフォローのためにお城に残らなきゃいけないんだって。それで、ジャックさんと2人で一緒に来ることになったのである。ただしお供はいるんだけど。
モモ子は自分の短い足を動かして執務室に入室すると、腕の中のバルチョ様ごとぺこんと頭を下げた。
「キルマ副団長、今日からよろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそ。おや、可愛いお人形を連れてますね」
「レリーナさん達がプレゼントしてくれたんです。名前はバルチョ様って言います。でも、お仕事場に持ち込んでごめんなさい。置いて来なきゃって思ったんだけど……」
桃子は申し訳なくなって俯いた。五歳児の本能なのかな? 馬車に乗る前まで抱きしめてたら、どうしてもバルチョ様を手放せなくなっちゃったんだよ。心の中でお子様がやだーっ! って盛大に駄々をこねたものだから、その影響で泣きそうになるし、十六歳の私はレリーナさんに渡そうとしたんだけど、どうしても手が離れなかったのである。
「団長の不在がモモの心には負担になっているのでしょう。いいですよ。特別に許可しましょう。そうですね、バルチョ様にはお仕事の間は団長の椅子に座っていてもらいましょうか」
そう言うと、キルマは桃子の腕から丁寧にバルチョ様を抱き上げて、団長の椅子にぽんと乗せる。そして、ぴっと指を差して言い聞かせる。
「いいですかバルチョ様、あなたには団長代理をしてもらいますから、団長の不在で気の抜けている団員には、びしっとした態度で接してくださいね」
そう言って桃子を笑顔で振り返ってくれる。本当ならダメなことなんだろうけど、優しいなぁ。
「ありがとうございます。それから、リンガのクッションと絵本のプレゼントもとっても嬉しかったです。貨幣のお話は面白くてお勉強にもなりました」
「喜んで頂けたようですね。私もプレゼントした甲斐がありました。誰かの為に選ぶという行為は久しぶりにしましたが、なかなか楽しいものでしたよ」
「私もプレゼントを選ぶ時、どきどきわくわくしました。だからキルマ副団長が喜んでくれて嬉しかったです。今日はお手伝い頑張ります! それで、今日の私のお仕事はどういうものですか?」
「おやおや、せっかく一緒に仕事をするというのに敬語は寂しいですね。この部屋の中では結構ですよ。私個人としてはいつものモモと楽しくお仕事をしたいのですが、一応モモも雇われ人ですから、団員の前では敬語でお願いします」
「はいっ!」
張り切ってハキハキと返事を返す。気分はピカピカの新人バイトさんである。店長の言うことはしっかり聞いて頑張って働きます! ひしっと見上げると、キルマの頬が緩む。うん? どうしたの? 首を傾げていると、あっと言う間に抱き上げられた。早技! そして桃子のもっちりしたお子様ほっぺは、男の人とは思えないほど綺麗なお肌のすべすべほっぺに擦り寄られていた。スリスリスリスリ……あのー、摩擦で煙とか出てない? 大丈夫?
「モモは私の一番の癒しです。今日も柔らかいほっぺたですね。小さいくて可愛いなんて至高ですよ。にゃんこと同じくらい愛くるしい……これから一緒に居られる時間が増えるなんて、日頃の行いが良かったから神様が私にご褒美を与えてくださったんでしょうか?」
実はとってもお疲れなの!? キルマは恍惚とした表情でどこか遠くに視線を飛ばしている。心なしかやつれているようないないような? 桃子はキルマの1本もお髭がない綺麗な頬を両手で挟む。どっから見ても儚くて美しい、女性的な麗しさのあるお顔立ちだねぇ。キルマの妹さんのリジーが美人なお兄さんの影響で苦労したのがよくわかる。
だけど私は一人っ子だったから、お兄さんとかお姉さんには憧れがあるんだよねぇ。キルマみたいなお兄さんがいていいなぁって思っちゃう。一人で家にいるのは、寂しいからね。