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18、キルマージ、問題の多さに頭をかかえる

キルマージ視点にて。*残酷描写?あり

 尋問室の中で、一人の男が椅子に縛り付けられて目隠しされていた。

 コツコツと足音が行ったり来たりを繰り返す。男の喉元が恐怖に慄くように、唾を飲み込んで大きく動く。

 正面で足音が止まると、苛立ったようにタタンと踵を打つ音が響いた。


「それほど難しい質問はしていないはずですよ? もう一度聞きましょう。貴方はどうしてあの子供を攫ったんですか?」


 柔らかな声が部屋に響く。目隠しされた男には、相手がどんな顔をしているのか見ることが出来ない。だから、声で想像することしか出来ないのが、恐ろしい。機嫌を損ねれば、何をされるのかわからない。そんな冷たい空気が漂っていた。


「オ、オレはただ一人でいるとこを見つけたから……」


「それで、たまたま攫ったと?」


「何度もそう言ってる! 未遂なんだから、重罪にはならないはずだろ!?」


「未遂だろうがなんだろうが、子供を攫ったんですから罪には問われますよ。……同じ質問をするのも飽きてきましたね。少し雑談でもしましょうか」


「なにを…………」


「私はあるモノがとても好きなんですよ。だからね、いつもこの手でそれを行います。手順も特別に教えて差し上げましょう」


 訥々とした語り口が楽しそうなものに変わっていく。


「──まずは、中を傷つけないように、表面の薄皮をゆっくりと剥いでいくんですよ。それから余分な部分を抉り取る。この時に、いらないもの以外を傷つけるといけないので、慎重に抉ってあげるんです。最後に、私好みにそれを切り分けます。私は6等分に切るのがちょうどいいと思うんですけど、あなたは何等分がお好みですか?」


 尋問者が熱の籠った口調で聞いてくるのに、男はガタガタ震えながら首を振った。


「やめ、止めてくれ!」


「おや、どうしました? あなたのお好み通りにして差し上げると、言っているのですよ?」


「言う! 全部話すから、止めてくれぇっ!」


 男は尋問者の言葉に陥落すると、震えながら懇願した。



「えげつねぇな」


 人攫いが尋問係に引きずられていく様子を眺めていたキルマージは、ディーカルの声に視線を彼に向けた。悪どく笑う顔には面白がっているのが透けて見えた。


 男にはわからなかったようだが、この部屋には三人の人間が最初からいたのだ。ディーカルはだるそうに壁に寄り掛かって見ていただけだが、さすが騎士団の四番隊長なだけあり、気配を殺すのに長けている。目を使えなかった相手には感じとることが出来なかったのだろう。


「なんのことですか? わたしはただ、好物の話をしただけですよ」


 相手が勝手に勘違いしたのだ。キルマージは果物の中でもとりわけ、ショリショリした触感のリンガが好きだった。だから、丁寧に切り方を説明してあげたに過ぎない。あぁ、そうです。今日はバルクライ様のお屋敷に泊まる予定ですし、お土産に買っていけば、モモも喜んでくれますかね?


「あの男、自分がされると思ってたぜ」


「よほど悪いことをしてきたのでしょうね。それよりも、あなたのおかげで助かりました。モモが被害にあったことは団長も知っておられます。礼を述べておいてほしいと」


「団長にそんなこと言われるとはなぁ。ケツが痒くなるぜ。それにしても、なんか変だよな? あいつ、やけにチビスケに執着してねぇか?」


「ディーカル、団長に対して失礼ですよ」


「ここにも固い奴がいたわ。ルーガ騎士団に身分は存在しない。ここは完全なる実力主義の世界だろ。場所は弁えてんだから、そのくらい許せよ」


「私は別にバルクライ様がこの国の王子であるから敬意を払えと言っているのではありませんよ。団長に対しての最低限の礼儀を持てと言っているんです」


「それはオレだって持ってるわ。団長が身分でなれるほど甘いもんじゃねぇのは、周知の事実だからな。でもな、オレ達学園の同期だしよぉ。十七ん時から知ってて付き合いも長げぇから、つい軽口叩きたくなんだよな。それで、あのチビッコと団長はどんな関係なんだよ?」


 まるで悪童のように、ディーカルの目が期待に光る。面白がる気満々なようだ。これがモモならば思わず頭を撫でてあげたくなるほど可愛いでしょうに……。大の男がしても、少しも可愛くありませんね。キルマージは悪童ディーカルに、バルクライに言われたことを伝える。


「あなたにはモモを助けてもらいましたし、団長からの許可もあるのでお伝えしておきます。今から話すことは全て内密にしてくださいね? ……モモは異世界から神殿の召喚魔法によってこちらに来てしまった迷人メイトです。その場に団長と私とカイが鉢合わせました」


「召喚で来た迷人メイトだと!? おい、まさか、あの男が攫う子供は黒髪黒目の子供だと指示されたってのは──」


「えぇ。おそらくは裏で神殿が糸を引いているのでしょう。この分だと、カイも嵌められた可能性が高い」


 騒ぎが起きた直後に桃子は攫われている。わざと騒ぎを起こしたと考える方が自然だ。あまりにもタイミングが合いすぎている。


「神殿絡みじゃ、こっちとしても手を出しかねるな。攫うように指示した奴も、騒ぎを起こした連中もとっくに逃げてんぜぇ。裏の人間は逃げ足が速いからな」


「悔しいですが、そう見て間違いないでしょうね」


 キルマージは重いため息をついた。この世界に否応なしに連れてこられた桃子は、原因の神殿に狙われている。口封じか、あるいは何かに利用しようとしているのか。


「馬鹿な人達です……バルクライ様を本気で怒らせたんですからね」


「はっ? あの団長がか?」


「信じられないでしょう? 道理に外れたことに対して怒りを露わにすることはありましたが、声を荒らげたり、感情を表に出すことはほとんどない方ですからね。この報告が来た時のバルクライ様は、目で人を殺せそうでしたよ」


 眉間にくっきりと皺をよせ、こめかみに青筋が浮かんだ顔は、まさに獰猛な魔物だ。神殿は怒らせてはいけない人の尾を踏んだのである。


「うははははっ、それオレも見たかった!」


「笑いごとじゃありません! 私は頭が痛いですよ。普段冷静な人ほど本気で何かを思った時は暴走しますから」


 副団長である自分が止めなくてはいけないのだから、熟考と協力要請が必要になりそうだ。モモ、私の疲れをいやしてくださいね。夕食は私が食べさせてあげますから!


 それさえあえればもう少し頑張れる。キルマージは幼女の笑顔を思い出して、仕事を乗り切るために心の中でそう願ったのだった。




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