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177、モモ、頼まれる~寂しいのを我慢するには元気の充電が必要なの~前編

 パチリッと唐突に目が覚めた、ような気がした。気づけば、桃子は白く立ち込めた濃い霧の中に立っていた。あれ? ここどこだろう? どうしてこの場所に立っているのかがわからなくて、桃子はきょろきょろと周囲を見回した。けれど、見えるのは湯煙のように漂う白い霧ばかりで、人も建物もまったく見えない。おかしいなぁ。バル様のお屋敷でお昼寝してたはずが、いつの間にワープしちゃったんだろうね?


「誰かいますかー!?」


 桃子は口元に両手を添えて声を張って呼びかける。けれど木霊さえ返ってこない。霧が音を防音してしまっているかのようだ。困っちゃったなぁ、どうしよう。短い両腕を組んでうむうむ唸っていると、これまた唐突にぐわんと音が響いてきた。


 ランディルに嫌われたっ!


 そんなに気にするなら謝りに行けばいいじゃないの。お酒で愚痴なんてやーねぇ。


 絶対に嫌な顔されるじゃないか。なんであんな嫌がるんだよ! アタシのなにがそんなに気に入らないってんだっ?

 

 女の人達の話し声が真っ白な霧の先から聞こえてくる。人がいるってことだね! 桃子は全力で駆け出す。そうは言っても、五歳児の足だからバル様の早足にも追いつけない速さだよ。とっとっとっと走る。ジョギングように腕を振って頑張っていると、ゼイハァと息が乱れた頃にいきなり霧が晴れた。


 霧のなくなった場所には、白くて大きな大理石のテーブルと、編み込みの深い椅子が二脚あり、二人の美女がゆったりとくつろいでいた。


 片方は美しい金髪と緑の瞳、薄布のドレスがとっても似合うメロンの美女。美の女神アデーナ様である。そして隣に腰かけているのは、褐色の肌にドレッドヘアと黄緑の瞳のエキゾチックな美女だ。三重にしたネックレスと異国の衣装を身に着けてる。腿から足首に入ったスリットからしなやかな足が覗いてるのがどきっとしちゃうね! うぅ、いいなぁ、この人もお胸がメロンだよぅ。桃子が羨ましく思っていると、美神様が驚いたように口元を真っ白な手で押さえる。


「あらやだ、モモじゃない! ここは神の領域よ? あなたどうしてこんな所にいるの?」


「わかんないです。気が付いたらここにいたのだけど、女神様、お屋敷に戻るのはどうしたらいいですか?」


「あたくしなら帰してあげられるわ。だけどどうして人の子が入って来れたのかしら?」


「そんなもんアタシが呼んだからに決まってるだろ」


 ヒックとしゃっくりつきで答えたのは、エキゾチックな美女だ。座った目が桃子にぼんやりとむけられてる。すんごく酔ってるみたいだけど、大丈夫? 二日酔いにならない? 先生がね、二日酔いって船に乗ってるみたいに足元がふらついて胃がむかむかするって言ってたよ?


「こっち来いよ。この賭けの女神、パサラ様が一杯注いでやるぜ」


「あなた相当酔ってるわねぇ。勝手にモモの精神を連れて来ちゃってガデスに無言で睨まれるわよ?」


「ふんっ、いいじゃねぇかよ。ちょっとくらい加護者を借りたって。アタシにはなってくれる加護者がいないんだからよぉ」


 管を巻いてるけど、このよいよいのお姉さんが賭けの女神様なの!? あれだね、お胸が大きいし、神々しい美女さんなんだけどこれだけ酔っちゃってると普通の人間の美女さんに見えてくるよね。あれ? でも、賭けの女神様って……。


「女神様はディーカルを知ってますか?」


「ディーカル? あぁ、ランディルのことか。知ってるさ、あいつがアタシの加護を受けねぇつーからさ、悪戯のつもりでちょっとばかり呪ってやったんだよ。不運になる呪いな。そうすれば、いつか根を上げて「加護者にならせてくれ!」 ってあいつから言ってくると思ってたのに、縋りも悪態も吐かなくてさぁ」


 ランディル? ディーの渾名かな? 桃子はそのまま話を進める賭けの女神様の話をうんうんと聞く。となりでお酒を空けたアデーナ様が色っぽくため息を吐いた。


「だからパサラも意地になっちゃったのよね?」


「いつも軽い怪我しかしてなかったのに、今回はランディルが酷い怪我を負っちまって……絶対嫌われたぁ!!」


 がばっとパサラ様がテーブルに懐いて泣きだす。酔っ払いの女神様に、桃子は慌ててさすさすと背中をさすってあげる。うっうっと嗚咽を漏らしてるけど、あの、吐き気もあったりする?


「だ、大丈夫ですか? おトイレ行きます?」


「行かねぇ。お前優しいなぁ。……そうだ! お前さ、アタシとランディルの仲を取り持ってくれよ。あいつに謝って、もう一回、アタシの加護を受けろって言いたいんだ。だけど、今のままじゃ印象が良くないだろ? だからお前がアタシのことをいい感じに伝えてくれ!」


「お、おぉぅ……」


 でろーんとテーブルに両手を伸ばしていたパサラ様がいきなり起き上がったので桃子は驚いた。思わず擦っていた背中から手を放すと賭けの女神様は桃子の狭い両肩をがしっと掴んで早口に頼んでくる。


「頼む! 言うこと聞かないと呪うぞ!」


「はうっ……わ、わかりました。絶対は約束出来ないけど、ディーに加護者は神様と仲良しだよって言ってみます」


「いいのかしら? 約束しちゃったわよ」


「へ?」


 ほとんど脅しまがいのお願いを断れずに頷くと、アデーナ様が呆れたように苦笑した。その瞬間、桃子の左手がぴかーっと光った。ふおおおおっ、必殺技が手から出ちゃう!? 眩しくて閉じた目を、光が治まったのを感じて恐る恐る開く。すると、手の甲に綺麗な紫の蝶の痣が浮いていた。すごいね、ザ、ファンタジー! まじまじと見下していると、パサラ様が上機嫌に笑った。


「アタシとの約束の証だ。モモ、頼んだぜ!」


 とんっとパサラ様に頭を軽く叩かれたら、踏みしめていた地面が消えた。足元がふわっと浮いて──落ちちゃう! と強く焦った瞬間に、肩をとんとんされて目が覚める。





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