175、モモ、そぅーっと手を伸ばす~人の温もりって不安を優しくとかしてくれる~後編
ガシガシと頭を撫でられた。乱暴な仕草だけど優しい手だ。心配していた桃子が今度は心配されている立場になっていて、くすぐったくなる。
「えへへ、ありがとう、ディー」
「よし、笑ったな。団長もその方が安心するぜ」
にこーっと笑顔を向けると、にやっと笑みが返された。両耳のピアスと相乗して、パンクさんらしい格好いい笑みだ。扉側から足音が聞こえてくる。レリーナさんが戻って来たみたい。しかし、桃子の予想は外れることとなる。
「隊長、怪我の具合はどうっすかー?」
「おい、まだ寝てるかもしれないだろ?」
「起きてるぜ。なんだ、お前等手ぶらかよ。見舞い品に酒の一つでも持ってこいや」
「冗談きついですよ。そんなもん持って来たらオレ達、ターニャ先生に半殺しにされますって!」
「昨日まで意識なくて、オレ達死にそうなほど心配してたんですよ。先生から、オレ達にも隊長に酒だけは与えんなって厳命下ってます」
「あのババァ……先手を打ちやがったな」
4番隊の団員さんだね。ぽんぽん言葉を交わしてるけど、楽しそうだ。桃子が見ているのに気づいた団員さんが膝を曲げて視線を合わせてくれる。
「団長に保護されてる子だよな? わざわざ隊長のお見舞いに来てくれたのか?」
「うん! ディーには前にも助けてもらったことがあるの。だから、怪我のことが心配になっちゃって」
「さすがオレ等の隊長っすね! こんな小さな子にも慕われてるなんて、鼻たけだかっすよ」
「鼻たけだかってなんだ。鼻高々(はなたかだか)だろ」
「えぇ!? 違ったんすか? オレはてっきり、たけだかだとばかり思ってましたよ。隊長って意外とはくしきって奴っすね」
「お前なぁ、そりゃあ褒め言葉じゃねぇよ。そんなんで学園をよく卒業出来たな」
「自慢じゃないっすけど、補習の常連でした!」
「本当に自慢になってねぇぞ。モモ、この残念なのがオレのとこの団員だ。戦闘能力は高いんだが、おつむの方がだいぶ弱くてな。オレも苦労させられてる」
「ははっ、ひでぇ!」
「隊長も副隊長にはよく叱られてるじゃないですか」
「うるせぇ。少なくともオレは補習を受けたことはねぇぞ」
「おおっ、そいつは凄い! 4番隊の奴等はだいたい補習組ですからね」
「……リキットには黙っとけよ。そんなことがあいつの耳に入ったら、知力を向上させるって、座学講座をやり始めるぜ」
「副隊長は4番隊らしからぬ真面目さっすからね。オレ等の知力を今更上げてもあんまり意味はないと思うんすけど」
「頭使い過ぎて体調崩す奴等が続出するだろうよ」
4番隊は仲良しなんだねぇ。親しそうなやりとりを聞いてるだけで面白くなってくる。桃子は新しい情報を手に入れた! 4番隊の副隊長さんにも会ってみたいね。でも、ディーはいい隊長さんなんだろうね。団員さん達もこんなに早くお見舞いに来てくれるんだもん。これ以上は邪魔しちゃ悪いかな? そう思ってたら、レリーナさんが花瓶にお花を活けて戻ってきてくれた。
「えっ、隊長のお見舞いの方ですか?」
「私はそちらに居られるモモ様の護衛です。どうぞお気になさらず」
レリーナさんの美しい微笑みに、団員さん達が照れたようにデレっとする。美人な護衛さんだもんねぇ。レリーナさんが棚の上に花瓶を置くのを見計らって、桃子は声をかけた。
「レリーナさん、そろそろ帰ろうと思うの。──ディーと会えて安心したよ。またお見舞いにくるね」
「おぉ。オレはしばらくここの世話になってるからよ。どうせ暇してる。いつでも遊びに来いよ」
「うん、また来る!」
ディーの言葉に、桃子は元気よく頷いた。これだけ元気なら、本当にすぐ治してしまいそうだ。でも、怪我は大きいのは事実だから、不自由もするかもしれないよね。その時に手伝えるように、また様子を見に来よう! 桃子は密かにそう決めた。