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170、モモ、心がわっしょいする~お子様の心模様は、晴天のち曇りときどき雷~

 キルマの美味しい紅茶をもらった桃子は、バル様のお膝に乗せられてティータイムを過ごした。久しぶりにバル様達に会えたから、寂しくてもこれでもうちょっと頑張れそう! 保護者様の腕の中で心の中の五歳児もご満悦である。久しぶりの抱っこに幸せの花が咲きそうだ。けれど、そろそろお時間である。桃子は離れがたい気持ちを振り払って、ティーカップをテーブルに戻しながら切り出した。


「バル様達もお仕事があるだろうし、そろそろ帰るよ」


「もうですか? よければ、食堂で昼食を一緒に取って行きませんか?」


「ううん、誘ってくれて嬉しいけど今日は止めとくね。だって、これ以上一緒に居たら帰りたくなくなっちゃうもん」


「……すまない。今夜もオレは屋敷には帰れないだろう。レリーナ、モモを頼む」


「はいっ、お任せくださいませ」


「ごめんな、モモ。団長を帰してやれなくて。害獣討伐の時期は団長が許可を出さないといけない書類仕事が多くなるから、どうしても仕事の拘束時間が伸びてしまうんだよ」


「仕方のないことだ。お前達も同じ時間働いているだろう。本当は早めに帰してやりたいんだが、オレ一人では手に負えん」


「わかっていますよ。害獣討伐が終わったらイリマータです。一緒に一杯飲みましょう」


「いりまーた?」


「えぇ。昔から討伐が終わると春が訪れると言われているので、春祭りをイリマータというのですよ」


「3日間行われるんだけど、いろんな出店も出て華やかなものだよ。他国からわざわざ見に来る者もいるくらいに盛り上がるのさ」


「わぁ、楽しそうだねぇ!」


 お祭りと聞いてわくわくしてきた。頬を膨らませていた五歳児も興味を持ったのか、興味津々の顔で目を輝かせている。どんな感じのお祭りなんだろうね? 元の世界のお祭りっていうと、お神輿を担いで大人も子供もわっしょいわっしょいってしてるイメージが強い。桃子の地元では子供用のお神輿があって、小学校低学年まではみんなで担いでいた思い出がある。


「モモにとっては初めてのイリマータか」


「団長、私もぜひご一緒したいです!」


「オレ達もさすがに3日間ずっととは言いませんから、1日くらいご検討を」


「あぁ、そうだな。モモもその方が嬉しいだろう」


「うん。すんごく嬉しいよ! 楽しみが出来ちゃった」


 嬉しくてにまーっと頬が緩んでしまう。正直者なほっぺたですみません。つきたてのお餅みたいに柔らかい頬を、両手でむにむに揉んでおく。顔に丸出しで恥ずかしいけど、バル様とお祭りを楽しめるかもしれない嬉しさには敵わない。それまでに表情をきゅっと引き締められるようになりたい。ほっぺたのエステが必要? マッサージしてたら引き締まるかなぁ?


「日程については、害獣討伐を終えてからモモに知らせる。帰るのならば入口まで送ろう。キルマとカイは仕事を進めていてくれ。モモ、しっかり掴まっていろ」


「はーい。カイ、キルマ、お仕事、とっても大変だと思うけど頑張ってね!」


「えぇ、モモとのイリマータのために頑張りますよ」


「それまでに、風邪なんか引かないようにね」


 バル様は膝に乗せていた桃子ごと立ち上がると、左腕に座らせ直す。いつもながら力持ちだねぇ。鍛えられた腕の安定感に安心しちゃうよ。桃子は二人に手を振って、バル様と後ろを歩くレリーナさんと一緒に廊下に出る。桃子はずっと抱えていた袋に目を落とす。この中にはまだ、お屋敷の人達への贈り物と貯金瓶が入っているのだ。


 メイドさんはレリーナさんと宝石違いで同じ形のブレスレット。


 執事のロンさんには身だしなみを気にかけてそうだから、装飾はないシンプルな形だけど、手にしっくり馴染む使いやすい銀のブラシ。


 さらに男性の使用人さんにはとっても履き心地の良い靴下。


 どれも邪魔にならず普段の生活で使えるものを中心に選んだ品だ。お屋敷でも喜んでもらえたら嬉しいね! お金は減ったけれど、桃子の心は青空であった。


 階段を下り、一階に下りるとやけに声がしている。なぜか団員さん達が大勢廊下に出ていたのだ。なにかあったのかな? 桃子は少し不安になって、バル様の袖を掴む手に力を入れる。

強いざわめきの中、慌てたようにバル様を呼ぶ声がした。


「団長! ちょうどお呼びしようかと」


「なんの騒ぎだ?」


「4番隊のディーカル隊長が重傷で帰還しました! 今はターニャ先生が診て下さっています」


「ディーカルだと!?」


 バル様の険しい声に頭の中で不安が弾ける。桃子の視線は、団員達の隙間から見える光景に引き寄せられた。床に敷かれた布の上に力なく横たわっていたのは、胸元に大きな傷を負って意識を失っている、ディーだった。




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