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17、モモ、名案を笑われる~十六歳はそんなことじゃ誤魔化されま、すん~

 ほっこりした身体と濡れた髪を大きく柔らかなタオルで拭いてもらうと、新しい服に着替える。今度は頭からすっぽりかぶれるので楽だった。上は薄い黄色の半袖で、ピンクのお花の刺繍が真ん中にされていて可愛い。下は水色で腿がもこもこした短パンだ。


 用意してくれたのは、レリーナさんだろうか。僅かな接触でも桃子のことを理解してくれている人がいるようだ。スカートじゃ走れないもんね。


 レリーナさんのすべらかなお手てに引かれて、バルコニーから庭に出ると、カイが三人掛け出来そうな横幅の広い編み椅子から立ち上がった。


 こちらもお湯を浴びたのか赤髪に深みが増して、笑みを向けられると眩しいほどの色気が漂ってくる。ただし、夜の街に居そうなホストさん系だ! 


「おぉぅ」


 あ、心の感嘆がつい口から洩れた。この素直なお口め! 自分の口を両手で押さえてみるものの手遅れである。


 しかし、カイは特に突っ込むこともなく、桃子を手招きした。なーに、イケメンさん? 私お金持ってないけどいいかな?


 とことこ近づくと、カイがしゃがんで桃子の顔にぐっと顔を寄せてくる。なになに、どうしたの? 真剣な目は、顔だけでなく全身を見分しているようだった。


「モモ、気持ち悪いとか目がかすむとか、変なとこはないな?」


「うん、お風呂でさっぱりしたもん。もう平気だよ」


「そっか……あぁー、良かった! ごめんな、モモ。オレが任されていたのに、傍を離れたせいで怖い思いをさせちゃったな」


 カイにぎゅっと抱きしめられる。心底安心したようにその声は甘く掠れていた。色気8割ましでっせ! でも、今回のことは不可抗力じゃないのかな。


 桃子は短い両手を広い背中に回してぽんぽんしてあげた。


「でも、困っている人を助けようとしたことは正しいことだと思うよ? 騎士団の団員なら、町の人を助けるのもお仕事だってカイも言ってたでしょ?」


「オレはバルクライ様にモモの護衛を任されていたんだ。護衛対象の傍を離れていいのはもう一人護衛が居る場合に限る。今回のことは明らかにオレの失態だよ」


 項垂れたのか、首筋に息がかかる。くすぐったくて身を捩りたくなるけど、そんな場合じゃないし、桃子は頭をひねって考えた。どう言えば伝わるかなぁ。


「それじゃあ、私の失敗でもあるね! あの時、私がカイにくっ付いて一緒に行けばよかったんだよ。そうしたらカイも私のこと守りながら町の人も助けられたでしょ?」


「……は?」


 カイがゆっくりと身体を離して、桃子をポカンとした顔で見つめてくる。隙だらけだ。今なら奇襲もかけられるぞ! 五歳児がわくわくと顔を出しそうになるのを押し込める。めっ! 今真剣な話をしてるんだから!


「あっ、そうだ! 今度同じようなことがあったら、おんぶしてもらうのは? そうしたら一緒に行ける!」


 名案の気がして、にこにこ見上げると、カイが横を向いて口元を押さえた。そして、イケメンらしからぬ様子で、ブハッと吹き出された。えぇー?


「なんで笑うかなぁ?」


「はははっ、……そりゃ……くはっ、笑うって……っ。モモは、可愛すぎて参るね」


「そんな爆笑されて可愛いって言われても、信じないもん!」


 子供らしく頬を膨らませて文句を言っておく。イケメンホストはナンバーワンからナンバースリーに格下げじゃ! 以後、接客には気をつけたまえよ。


「頬を膨らませても余計に可愛いだけだよ。お姫様、これで許してくれよ」


 あやすように抱きかかえられて、編み椅子の上に腰を下ろしたカイのお膝の上に座らされる。

 丸いテーブルには、クッキーと入れたばかりの紅茶とオレンジ色のジュースが入れられた小さなカップが二つ。はっと周囲を見れば、バルコニーのドア付近で美しくほほ笑むレリーナさんとロンさんが。仕事が早いね。


 名前を呼ばれて顔を戻すと、口元にクッキーを差し出される。なるほど餌付けだね! 私は十六歳。こんなことでは誤魔化され……美味しい。生クリームの香りがほんのりしてて、上品な甘みがクセになる。もっとちょうだいとねだって口を開けると、再び笑われた。


「ご機嫌は直ったかな?」


「もう一個くれたら直るかもね!」


「ははっ、どうぞ」


 再び口元に運ばれてきたクッキーをサクサクと食む。ほんのり温かく感じるクッキーは歯触りもよく、甘すぎず、バターが十分使われているのがわかる。


 美味しいものは人を幸せにするよねぇ。あんまりにも美味しくて食べ過ぎちゃいそう。自分で手を伸ばしても、取る前にカイの指に攫われる。これ、バル様もしてくれたけど、楽しいの?


 小さなコップはモモの為に用意してくれたのか、軽くて持ちやすかった。この気遣いには感動した。執事さんとメイドさんってすごいよ。有能過ぎて、びっくりだよ。

 こうして桃子は、おやつの時間をカイのお膝の上で堪能したのであった。


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