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167、モモ、手に入れる~保護者様をびっくりさせるのは子供の特権だよね~中編

「モモも危ないことはしない! はぁー、モモがふっ飛んでるのを見た時には焦ったぜ」


「ごめんなさいっ」


「こんな激しい遊びはオレや団長達の目がある場所でしなさい」


「うん。カイ達がいないとこではしない!」


「わかってくれたなら、よし。ファングル、お前は仕事中なんだろ? 今回のことは黙っといてやるから仕事してこい!」


「はっ、はいっ、ほんとすみませんでしたぁーっ!」


 逃げるように廊下を走り去るお兄さん。お兄さんのお仕事って受付なんじゃ……? 桃子は疑問に思ったが沈黙しておく。空気の読める五歳児だかんね!


「モモ様、このような遊びがしたいのでしたら、ぜひ私にお申し付け下さいませ。私ならけしてモモ様をお放しするようなことは致しませんから」


 レリーナさんなら出来ちゃいそうだけど、女の人にこんな遊びをしてもらうのは大変じゃない? いくら子供でも五歳児だし、女の人の細腕だと重いと思うの。でも、そんなこと言ったら、レリーナさんのことだから、鍛えますって言い出しそう。桃子にはもったいないほど綺麗な護衛さんなんだけど、時々その親切心が暴走しがちなのだ。本当に優しいし、信頼出来る人なんだけどね。 


「ところで、二人はどうしてルーガ騎士団に? 団長に会いに来たのか?」


「バル様だけじゃなくてね、カイとキルマにも会いたくて来たんだよ。今日も忙しいかな? もしそうなら、手の空きそうな時間帯を教えてほしいの」


「せっかく来てくれたのに、ここでモモを帰したらオレが団長とキルマに恨まれるぜ。二人共モモにしばらく会えてなかったせいか、最近は……まぁ、ずっと働きづめじゃ身体に悪いよな。ちょうど、休憩しないか尋ねてみようと思ってたんだ。モモも一緒においで」


「それじゃあ、ちょっとだけお邪魔させてもらうね」


 カイが引きつった顔で何かを言いよどんだ。気にはなるけど、二人に会えばすぐにわかることかな? 桃子はこっくりと頷いた。よーし、バル様達を驚かせちゃおう! カイに抱っこされたまま桃子は廊下を進んでいく。


「害獣の討伐さえ終わればもう少しゆっくり時間が取れるからな。もうちょっとの辛抱だよ」


 階段を上って、二階に到着すれば、すぐに執務室だ。けれど、なんだか執務室の中で大きな声と物音がしてるみたい。まさか……バル様とキルマが喧嘩してる!? 扉で音が遮られてるはずなのに漏れてるもん。桃子の頭の中で、ボクシングのリングが登場した。赤と青のハーフパンツを穿いた二人は両手にグローブを嵌めており、ボカスカ殴り合っている。大変、止めないと!


「カイ、二人が喧嘩してるよ!」


「ちょっ、こらっ、モモ!」


「レリーナさん、ドアを開けて!」


「はいっ」


 桃子がお願いすると、レリーナさんはカイの前に立って、さっと扉を開けてくれる。緊急事態だと思った桃子はカイの腕から飛び降りて、開いた扉の先に突撃していく。


「二人とも喧嘩は止めようーっ!! ……あれ?」


 叫びながら決死の思いで突撃した桃子は、予想外の光景に目をパチクリさせることになった。殴り合いの喧嘩をしているとばかり思っていた二人は、それぞれの席に座っており、異変と言えば、バル様の執務机に両手をついている団員さんが一人いたことだけだ。しかも、この人は見たことある?


「……モモ? どうした。寂しくなって訪ねて来たのか?」


 バル様が足早にやってきて、桃子は逞しい腕に回収される。いつもと変わりない無表情に見えるけど、ちゅっちゅっと両頬に口づけられてわかった。表に出てないだけで実はすんごくお疲れなんだね! 右手にプレゼントを入れた袋を抱えてるから、左手でバル様のスベスベほっぺをなでなでしておく。化粧品要らずの綺麗なお肌ですね!


「モモ……」


 黒曜石のように美しい瞳が伏せられて、抱きしめられる。吐息のような声で名前を呼ばれる。背中がざわつく美声は疲れのためか深いため息を帯びて色濃い艶が見える。はぅっ、バル様の美声で心臓が速くなっちゃう。ドキドキして顔が熱くなってきた。団扇でパタパタしたい!


「ずるいですよ、団長! 私にも抱っこさせてください!」


「……断る」


「断らないでください!」


 キルマがずかずかと近づいてきて、両手を差し出す。けれど、バル様はふいっと顔を逸らして拒否した。珍しい様子に、二人のお疲れ具合を察せられる。後ろをちらっと振り返ると、カイが苦笑していた。さっき言い淀んでいた理由がわかったね。


「お疲れなんだね。じゃあ、私がおまじないしてあげるよ。──疲れたの疲れたの飛んでけーっ!」


「……あぁ、本当に飛んでいきそうだ」


 痛いの痛いの飛んでいけっていうおまじないを、桃子風にアレンジしてみる。ほっぺをなでなでしながら窓に向けて投げる仕草をすると、バル様がうっすらと笑った。極上の微笑みはまさに眼福! 大好きな人に笑ってもらえると嬉しくなるよねぇ。





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