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166、モモ、手に入れる~保護者様をびっくりさせるのは子供の特権だよね~前篇

 桃子は馬上で両腕に抱えた紙袋を見下ろしてご機嫌だった。レリーナさんのおかげですんごくお得な買い物が出来たねぇ。お金に余裕があったので、他の店もいろいろと回り、バル様達とお屋敷でお世話になっているロンさん達のプレゼントも買えた。大変な成果である。


「バル様、今日はお屋敷に帰ってくるかなぁ?」


「しばらくお顔も拝見していませんし、モモ様もお寂しゅうございましょう。そうです! せっかく買ったのですし、このままルーガ騎士団まで行ってみませんか?」


「え? でも、バル様達はお仕事をしてるし……」


「受付でお尋ねして、もし忙しいのであればお屋敷に戻ればいいのですよ。モモ様はずっといい子で我慢していらっしゃいました。夜に何度も起きていたことも、お会いしたい気持ちを抑えていたことも私は知っています。ですから、少しくらいお望みをおっしゃってもいいのですよ」


「うーん、迷惑にならないかなぁ?」


「なりませんとも。むしろお喜びになられると思いますよ」


「……それじゃあ、ちょっとだけ覗いて、忙しそうならそぅっと帰ることにする!」


 レリーナさんの後押しに勇気を貰って、桃子は決心する。バル様に会えるかもしれない! そう思うだけで心がわくわくと浮き立ってきちゃう。心の中で五歳児がバンザイして全力で喜んでる。ぎゅってしてもらうの! と激しく主張している。桃子自身も恥ずかしいけどちょっとだけしてほしいと思っている。でも、あくまでも、もう一回言っとく、あくまでも、バル様が忙しそうじゃなければ、だからね! 我慢するのは慣れてるから、まだ大丈夫だもん。そう自分を宥めておく。


「バルクライ様とお会いできるといいですね。しっかりお摑まりくださいませ。はっ!」


 レリーナさんが馬の縄をピシリと打つ。駆け足で馬が走り出した。





 ルーガ騎士団に到着した桃子とレリーナさんは、退屈そうに受付に立っているお兄さんに声をかけた。


「こんにちは! あの、今日のバル様は忙しそうですか?」


「あっ、団長に抱っこされてた子供!」 


 茶髪のお兄さんにビシッと指差された。うん? ルーガ騎士団にお邪魔するのは3回目だから、そのどこかで見られたことがあったのかな? ルーガ騎士団師団長さんなのに、五歳児抱っこしてたら目立つよねぇ。皆の団長さんの腕を借りちゃってごめんね。なにしろ、短い足だから廊下を歩いていくのも時間がかかっちゃうんだよ。


ローラースケートを履いてればもう少し早く進めると思うんだけど。いや、でも短い足だとむしろ危ない? コロンコロンと廊下を転がっている自分の姿が浮かぶ。うーん、やっぱりなしで!

桃子の疑問符の浮かんだ顔に、お兄さんは焦ったように今度は自分を指さす。


「オレオレ! ほら、あの時目が合っただろ? え? 全然見覚えない?」


 うーんうーん。首を右に左に傾げる。ルーガ騎士団には団員のお兄さんがたくさんいるもんね。自分に向けられた指が自信をなくしたようにへにゃんと曲がっていく。な、なんとか思い出してあげなきゃ! お兄さんのお顔をじっくりと見つめる。男の人にしては大きな目に、茶色の髪。屋台とかお祭りとか好きそうな顔をしてる。


 えーっとえーっと、桃子は頭から煙が出そうなほど考えた。ルーガ騎士団の中、隊長さん達は違うし、バル様とカイの試合を見てた人の中にいた? でも、なんか違う気がする。門番さん、も違うと思う。後は廊下ですれ違った……思い出した!


「初めてルーガ騎士団に来た時に、私が手を振ったお兄さん!」


「思い出してくれたか!」


 お兄さんが感激したように笑顔になると、桃子を抱き上げてクルクルと回る。おおおおぅ、身体がぁ浮くよぅ! どうしよう、楽しくなってきちゃった。ふわっと一瞬襲う浮遊感が面白い。ジェットコースターに乗ってて落下する瞬間と似てるね。無重力体験! 桃子が笑い声を上げると、お兄さんはさらにブンブン振り回してくれた。


「ほーらどうだー、楽しいかー」


「楽しいーもっかいー」


「じゃあ、もう一回な」


「モモ様、危のうございますよ! あなたも乱暴な遊びはお止めくださいませ!」


「大丈夫、大丈夫。オレがこうやってちゃんと持って──あっ」


「あわっ?」


「モモ様!!」


 気づくとポォーンと空中を飛んでいた。あ、これはまずいかも。桃子は意外と冷静にそう思った。楽しさにかまけて大事な任務をおろそかにしちゃった罰かな。せめてプレゼントは守らなきゃ! 胸にしっかりと紙袋を抱えて背中から落ちていく。ズザーッとなにかを擦る音がして、ドサッと落っこちた桃子は、気付くとなにか柔らかなものに包まれていた。あ、あれ?


「あっぶねぇっ。ファングル・カーギリ! このお調子者が!! モモに怪我なんかさせたら団長に半殺しにされるぞ! いや、それより先に、泣きが入るまでオレが訓練してやろうか!?」


「うわっ、すんません、カイさん!」


 怒声を上げたのはカイだった。悲鳴を上げてお兄さんが謝っている。飛ばされた桃子を、足からのスライディングキャッチで助けてくれたのだ。だけど、すんごく怒ってる。その目が今度はモモに向けられる。ホストのように女性受けする甘い顔立ちが今は怖い真顔だ。桃子は両手で持ちあげられて顔を目の前に寄せられる。





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