164、モモ、貯金をはたきたい~お買い物の作法は先生に教えてもらいましょう~中編
街の中心部には大きな市場が存在する。立ち並ぶお店は室内と露店が混在していて、今日も人を呼び込んで賑わっている様子だ。
この通りの一角に請負屋さんがあるため、桃子も何度かこの道を通ってはいた。けれど、いつも馬に乗りながら眺めるばかりだったので、歩いてる馬の背からゆっくり見ると、密集した店の多さに気付いて感嘆するばかりだった。これだけ多いと五歳児の冒険心がうずいちゃうね!
「たくさんあるねぇ。あれは、装飾品のお店かな? その隣が剣を飾ってあるから武器屋さん? 通りを挟んで反対側には洋服店もあるみたい。忙しい人とかこの街に初めて来た人には優しいね。ここで一通りのものは揃えられる感じだもん」
「えぇ。この通りがメインですが、外れた場所にもさまざまな店がございます。値段もそれぞれの店によって違うので、良い物を手ごろな値段で探すのも楽しいですよ。他にも、野菜や肉など日々の食糧を補うための食糧店、食事を提供してくれる食堂、宿泊施設、武器、防具、洋服店、さらに、書店や小物を売る店などの娯楽関係もございます。モモ様はどのようなものをお求めですか?」
「そうだね、今思いつくのは装飾品と小物、お菓子と洋服、後は書店ってところかなぁ。せっかくだからいろいろ見て回りたいの。一番近いのはあそこかな?」
少し前の店を指差す。実は気になってたんだよね。喜んでくれそうなものがあればいいなぁ。レリーナさんが手綱を操って馬を早足にする。トットットと走り出した馬は、お目当ての店の前にぴたりと止まった。
バル様もそうだけど、この世界の人って、馬を操るのがすんごく上手い。自分達の交通手段だから自然と上達していくんだろうけど、それにしても、まるで自分の手足みたいに自在に操るから尊敬しちゃう。お屋敷の馬も素直に騎乗した人の言うことを聞いてくれるから、最近はちょっぴり親しみが生まれてたりする。素直なもの同士仲良くなれそう?
レリーナさんが先に降りて、前に乗っていた桃子を下ろしてくれる。地面を踏みしめた桃子は、煉瓦造りの白いお店を見上げる。一階の庇には細い看板が乗っていて【素敵な装飾品店】と金色の字で彫られていた。……もしかしてお高いお店? おほほ笑いが似合うマダム達の御用達で、桃子みたいな五歳児はお門違い? 小金持ちの桃子は不安に駆られながら、貯金瓶を腕に抱え直す。レリーナさんは寄ってきた子にお金を渡して馬を任せると傍に来てくれる。
「では入ってみましょうか」
「レリーナさん、このお金で足りると思う?」
「ここは私も見知った店ですから大丈夫です。外観は正統派で高級な店に見えますが、店主がなかなかの変わり者でして、商売よりも自分の娯楽を優先している人ですよ。高級なものもありますが、良心的なものも揃っていますから気がねなく入れます」
レリーナさんの太鼓判を頂いたので桃子は安心して、レリーナさんが開けてくれた扉をすり抜けて中に入った。店内には木製の台の上に展示物のように置かれていて、綺麗な宝石入りのイヤリングだったり、細い鎖に小さな宝石が複数付けられたブレスレットや、青いバラの花が刺繍されたスカーフなどが置いてあった。
イヤリングは白銀貨6枚、スカーフは白銀貨1枚と価格が一緒に添えられた木の板に書かれていたが、他は銅貨10枚~20枚までと良心的な値段だ。
その中で桃子の目を引いたのは、綺麗な布地に細かい鎖と小さな淡い水色の石が絡まった一品だった。これはブレスレットや髪飾りにも出来そうだし、レリーナさんやメイドの皆にも良く似合いそうだね。小さな木の板に表示された価格も銅貨13枚と書かれていた。桃子はさっそくレリーナさんに尋ねる。
「レリーナお姉ちゃん、こういうのってどのくらいの年齢の人がつけてる?」
「ピティがつけても私がつけてもおかしくはないわ」
おねえちゃん呼びにぽっと頬を染めながら答えてくれるレリーナさんは、クールな美人さんなのに可愛い。いつも仕事が出来る女性って雰囲気があるけど、この表情をみればジャックさんが一目惚れしちゃうのもわかるよ!
年の離れた姉妹の振りをしているからレリーナさんも口調を崩してくれている。桃子も変装は格好から! ってことで、ポケットが腿の部分にもある膝丈のズボンと、薄い黄色のパーカー、その下に頭からずぼっと首を通すシャツを着ていた。その服も、いつも着てますよ感を出すために、わざわざ古着をレリーナさんが探して来てくれたのだ。