160、モモ、お菓子をもらう~仲良くなった人とのお付き合いは太く長くしたいよね~中編
周囲の注目を浴びてる中、バル様が出入り口に向かっていく。今日はこれで解散みたい。でも、他にもなにか大事なことがあったような……?
「リジー……?」
キルマが呼んだ名前で思い出す。そうだったよ! うっかり忘れかけてたカイの頼まれごとが、目の前にやってきた。
「な、なんであんたがここに!? それに、バルクライ様とモモちゃんまで?」
「お前こそどうして請負屋に……カイの仕業ですね。まったく、見つけたなら教えてくれればいいものを」
「あいつ、謀ったわね……っ」
「なんだ? 二人は知り合いなのか?」
呆れたようにため息をついたキルマと、苛立たしそうに腕を組むリジーに、ギャルタスさんは興味を持った様子で尋ねた。
「私の妹ですよ」
「妹? ははー、似てない兄妹もいるもんだな」
「私は父方の祖母に似たので、家族の誰にも似ていないのですよ。妹は母にそっくりです」
「なによ、その気持ち悪い口調! あんたみたいな奴、私の兄なんかじゃないわ。絶対に認めないんだから!」
「そんなことを言っても事実は変えられませんよ。それに、この口調の方がなにかと使い勝手がいいのです。お前こそ少しは可愛げを身に付けたらどうですか?」
バチバチバチィ!! 睨み合う二人の間に火花が散ってる。恐ろしい。桃子は間を取りなすように、のん気な振りをして声をかける。
「キルマはいつもその口調だよね? ほんとは違うの?」
「そんなことはありませんよ。ただ、私も男ですから、子供の頃は生意気で口も悪かったのです。ルーガ騎士団に入ろうと決めた時に、丁寧な話し方をするように矯正したので、今ではこちらがすっかり癖になってしまいました」
「昔はその顔と言葉の落差が激しいと評判だったからな」
「正しくは悪評ですよ。そのせいで無駄に上級生に絡まれることも多くて、カイを巻き込んでよくお話し合いをしたものです」
それって、【お話し合い】と書いてケンカって読む? って、聞きたくなったけど、キラキラしい笑顔のキルマを前にしたら飲み込むしかないよね! 聞き耳を立てていたらしい周囲の請負人達の絶望した視線が物悲しい。【男】という単語を聞いちゃったんだね……。それにしても、口調を意識して直したって、実際にやってみると結構大変だよね。私も敬語が苦手だから、よく、なんちゃって敬語になってるもん。出来るだけ丁寧さは心がけてるんだけどね。
「口の悪いキルマも見てみたかったなぁ」
「モモにはとても聞かせられませんよ。教育にもよくありませんから。モモはそのまま健やかに育ってくださいね」
うん、時々思うんだけど、キルマ達は私が本当は十六歳ってことをうっかり忘れてる時があるよね? 今がまさにそうだと思うの。十分健やかに育ってるから、心配ないよ? しょっちゅう、五歳児の精神に引っ張られてるだけで!
「騙されちゃ駄目よ、モモ! そいつの本性はそんなお綺麗なものじゃないわ!」
リジーが敵意を剥き出しにしてキルマに人差し指を振り下ろす。ビシィッと音が鳴りそうな勢いだったよ。荒々しい語尾といい、並々ならぬ感情が込められているのが伝わる。
「モモにおかしなことを吹き込まないでください。素直過ぎる子なんですから、お前の言葉を本気にしたら困ります」
「全部本当のことでしょうが! 忘れたとは言わせないわ。あんたのせいで私は失恋ばかりしていたのよ!」
「え? キルマのせい?」
「えぇ、そうよ。──初めて好きになった人は、そいつを女と勘違いして一目惚れ。そのうえ、私に紹介を迫ってきたの。実の兄だって説明しても信じなくて、私がそいつの美しさに嫉妬して嘘をついてるのだと罵られたわ!」
うわー、なんてしょっぱ過ぎる初恋だろうか。悲劇だよぅ。なるほど、それでキルマと仲が悪くなっちゃったんだね? え? まだ話は終わらない?
「二番目に好きになった人は、せっかく恋人になれたのに、家に遊びに来た時にそいつに鉢合わせしてまた一目惚れ。男だと言っても信じなくて、私の目の前でそのまま告白しやがったわね!」
これはまた、強烈なエピソードが飛び出してきちゃったよ。男運が悪かったのかな? だって、恋人の目の前で他の人に告白をするなんて正気の行動とは思えないよ。
「その後も、好きになったりいいなって思った男に限ってそいつに惚れちゃうのよ! あげくに、全然似てないとかお兄さんの方が綺麗とか、むしろ男でもいいからお付き合いしたい、なんて言い出す奴まで出てきて……っ!!」