148、モモ、困り顔になる~神様の力を貸してもらうには勇気と覚悟が必要だね~中編
どうしようか困っていると、レリーナさんが走り寄って来た。
「モモ様!」
「レリーナか」
「お止め出来ずに申し訳ございませんでした、バルクライ様。モモ様がご無事で本当にようございました! 飛び出して行ってしまった時にはどうなることかと……っ」
「な、泣かないでレリーナさん! 軍神様が来てくれたからかすり傷もないよ!」
目を潤ませる美人な護衛さんに桃子は慌てる。あたふたと両手を左右に動かしていると、バル様に両脇を抱えられてレリーナさんに差し出された。細い両腕が羽ばたくように広がって、ひしっと抱きしめられる。豊かなお胸に顔が埋まりかけてアップアップと息が詰まる。慌てて顔を横向きにずらせば、ルイスさんと目が合った。
請負屋から飛び出した時、呼びとめてくれた沢山の声の中にルイスさんのものもあった気がする。だけど、今は何を思っているのかわからない目をしていた。観察しているともとれるその真剣な眼差しは親しみやすかったおいちゃんにはなかったもので、やっぱり軍神様に加護を与えてもらってるから、見方が変わっちゃったのかもしれない。そう思ったら、どうしようもなく寂しくなった。
「おいちゃん……」
ぽつんと呟いた声が届いたのか、ルイスさんがこっちに近づいてくる。桃子はレリーナさんの腕の中で、桃子は狭まる距離から逃げるように、豊かなお胸に顔を伏せさせてもらう。心を楊枝でつつかれてるみたい。反応が怖くて全力で逃げたくなる。誰かシーツを投げて! 今すぐその中に隠れたい。
「団長さん、ちょっといいか? モモちゃんと話をさせてほしいんだが」
「……確か、モモを助けた請負人だったな? 人攫いの件では助かった。見た通り、本人は周囲の視線が堪えているようだから、どこか人目のないところで休ませてやりたい」
レリーナさんのお胸に埋まる桃子の様子を見てか、バル様がやんわりと断りを入れてくれる。後頭部に視線を感じるけど、桃子はただいま留守です! と背中で語ってみる。実際は語るほどの威厳と貫禄はないんだけどね!
「正確には請負人兼神官でもある。少しだけだ、頼む。──モモちゃん、おいちゃんと話すのは嫌か?」
「…………」
落ち込んだように声尻を弱めるルイスが気になって、桃子はレリーナさんのお胸からちょっぴり顔を上げた。まだ留守だよ、留守だよ……目で訴えながらルイスさんに目を向ける。
再び二人の視線が結ばれた。ルイスさんの顔は予想と違って前と変わらない柔らかなもので、ほっとしたように口元を緩めている。……あれ? さっきと違う?
混乱して桃子は目をぱちくりする。
「モモちゃんが軍神の加護持ちだったってことには驚いたけどな、おいちゃんとしては、モモちゃんとはこれからも普通に仲良くしたいと思ってるよ」
「本当?」
「本当だとも。でもな、それとは別に1つだけモモちゃんに頼みたいことがあるんだ。今度話だけでも聞いてほしい。──あぁ、ようやく来たな」
ルイスさんの視線が入口に向けられる。レリーナさんが振り返ったので、桃子の視界にもその光景が見えた。
ジャックさんが先頭を走り、その後ろにぞくぞくと続く馬には白い衣装が波打っている。ルイスさんの声に応じてくれた神官さん達がやってきてくれたのだ。その数、およそ30人。彼等は請負屋の前で馬を止めると、慣れない様子で馬から降りてずらりと並ぶ。
「ルイスさん、連れてきたぜ! ここに来る途中の避難場所に残ってもらった神官も居るんで、この人数になった」
「よくやってくれた、ジャック。──皆もよく応えてくれた。後の責任はオレが全て取る! 治癒魔法を使って怪我人を一人残らず治すんだ!!」
【はいっ、ルクティス様!】
十代後半から三十代前半くらいまでの男女混同の神官達は、一糸乱れぬ返事を返し、請負屋の中に入ってくる。彼等はルイスさんの指示に従って怪我人を治していく。請負屋の室内で白い精霊が楽しそうに飛び始める。蛍が飛んでるみたいで綺麗。ほとんど1人で奮闘していたタオもようやく援軍が来たのでほっとしてる様子が遠くから見えた。本当に頑張ってくれてたもんね。
「驚いたな。神官にも関わらず請負人も兼業しているのか? それも、これだけの神官を動かすとは……一体何者だ?」
「タオが言ってたの。おいちゃんは無所属の人達の頭になるべき人だって」
「モモは大物を釣り上げたみたいだね。軍神ガデスといい、今回の件といい、えらい相手と繋がりを持ったもんだ」
「ふふっ、それだけモモ様が魅力的ということです」
レリーナさんが上品に笑う。そうかなぁ? レリーナさんの方が魅力的だと思うよ。美人だし、お胸は大きいし、運動神経もいいうえに、すんごく優しい。す、すごいぞ! いい部分しか思いつかない! あ、一個だけ困った部分があったっけ。なぜなのか、私にだけ残念な美人さんになっちゃうこと。うん、でもこのくらいはマイナスにもならないよね! 自慢の護衛さんです。
そんなことを考えてると、覚えのある視線を感じた。ムズムズするこの感じは……?