147、モモ、困り顔になる~神様の力を貸してもらうには勇気と覚悟が必要だね~前編
騒ぎが収まり、カイを先頭にルーガ騎士団の団員と請負人が集まってくる。周囲はだいぶ荒れてるけど、被害は最小限に食い止められたみたい。軍神様が空中から地面に降りてきて、バル様の前に立つ。バル様は桃子をそっと地面におろすと、片膝をついて、胸元に左手を当てた。その背後に従うように立っていたルーガ騎士団の団員達が同じように膝を折る。あっ、それ知ってる! ルーガ騎士団の敬礼だよね!
「軍神ガデスに感謝を。モモの声に応じて頂けたおかげで人々を救うことが出来ました。第二王子として、またルーガ騎士団師団長としても、国を代表してお礼申し上げます」
「馬車の時も今回のことも助けてもらって、ありがとうございました!」
桃子もバル様の隣で両手を前に揃えて、精一杯丁寧に頭を下げる。
「礼は受け取ろう。だが悪しきものを野放しにしたは、我等神の失策でもある。アレは遥か昔、我と同じ神であった。しかし、自ら加護を与えた人間を呪い、悪しき存在に身を堕としめたのだ。レナトスは我が友でもある。故にその懇願を聞き入れ封印という形で収めたが、過ちであったようだ」
軍神様が赤い目を眇めた。消滅したと言うその神のことを悔やんでいるのかもしれないね。神様達の事情はわかったけれど、自分が加護を与えた人を呪っちゃうって、よっぽどのことだよ。それだけ強く憎んでたってことなの? 神様だったっていうフィーニスと加護を与えられたその人の間に一体なにがあったんだろう? 桃子の中では新たに疑問が浮かんでくる。
「あの、フィーニスが人を呪ったのはなんでなんですか?」
「それは言えぬ。人に法があるように神にも守らねばならぬ定めがある。その中でも最も犯してはならない禁忌をあの者は破ったのだ。悪しき存在となったあの者は、神だけでなく人間そのものを憎んでいる。だが、バルクライ、そなたの与えた傷が癒えるまでしばし時間は稼げよう」
「その猶予がどれほどあるか、お分かりになりますか?」
「そうよな……おそらく早くとも一月はかかろう。堕ちた身では治癒魔法は使えぬからな。しかし、傷が癒えればアレは再び災厄を引き連れ、お前達の前に現れようぞ」
それは桃子も、そしてたぶんバル様も感じていることだった。害獣による襲撃は終結されたけど、今回のことはほんの始まりに過ぎない予感がビシバシしてるよぅ! 今回は皆助かったけど、大けがをした人だっているし、次回も上手くいく保証はない。こう思っちゃうのはすんごい欲張りなんだろうけど、誰にも怪我はしてほしくないんだよ。不吉な予感に慄いてプルプル震えていると、軍神様に頭を撫でられた。
「そなたは此度も、我が加護を与えるにふさわしき者であるとその行動で示した。なればこそ、今回の件に関わらず我はそなたに力を貸し、その声に応えよう。モモ、我は封印に使いし地を調べに行く。なにか見つけし時はそなたにも知らせよう」
軍神様はそう言い残すと、一瞬の白い光となって消えてしまった。神様って素早いね。膝を上げたバル様に再びだっこされると、カイ達ルーガ騎士団の人達もさっと立ち上がる。遠巻きにしていた請負人の人達が近づいて来れば、お店の中にもほっとしたようにざわめきが戻っていく。
「団長! そろそろ請負屋の頭目も戻ってくるはずですよ。中で待たせてもらいましょう」
「あぁ。怪我をした者は手当てを受けて身体を休めろ。今回の危機は脱したと判断していい」
カイは普通だけど、ルーガ騎士団の団員さんと請負人の視線が痛い。あのぅ、そんな凝視されても、なんにも出てきたりはしないよ!? 軍神様を呼ぶって決めた時から覚悟はしてたけど、請負屋さんの中に戻ったら、周囲の無言の視線がバル様の腕の中にお邪魔中の桃子にやっぱり飛んできた。
戸惑った様子でざわついている人達に、桃子も困り顔になっていく。空気が固いよぅ。うーんと、えーっと、お、踊るべき? そうしたら空気柔らかくなる? それならあの、簡単なので良ければ踊るよ? 唯一まともに踊れそうな、キャンプファイヤーで覚えた踊りを心の中でこっそり提案してみる。




