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142、カイ、共闘に加わる 前編

カイ視点にて。 *残酷描写あり 

 請負屋とのまさかの共同戦線に、カイは無表情で狼型の害獣に剣を振るう上官の様子を気にしながら、自分もまた飛びかかってきた害獣を一蹴した。しかし次から次にどこからか現れる害獣は減る様子が見えない。


「こっちにも応援頼む!」


「おうっ、オレが行く」


「子供を二人保護したわ! どこに連れていけばいい!?」


「空いてる店に避難させろ。外には出ないように伝えろ!」


 外は混乱が続いている。逃げ惑う人の悲鳴と、害獣の咆哮、請負屋の声が混じり合い、騒然としていた。カイは自分に向かってきた害獣の鼻っ柱に剣を切り上げて、怯んだ瞬間頭に剣を突き刺した。ギャンッと悲鳴を上げて害獣がドッっと伏せるように倒れる。


「団長、この辺は終わったみたいですよ」


「こちらも後一匹で完了だ」


請負人とカイ達が討伐した害獣が、道に点々と倒れている。それほど強くはないが、次から次に現れるので骨が折れる。……相変わらず、容赦ないほど強い人だな。カイはバルクライが一振りで害獣の首を刎ねた姿に、内心冷や汗を浮かべた。無表情ではあるが力技の粗さが目立つ様子からも、上官の機嫌の悪さが透けて見える。おそらく、請負屋に残してきたモモのことが心配なのだろう。


 幼女が怪我をしたと連絡を受けて、卒倒しかけたキルマを宥めすかし、無言で殺気立つバルクライに付き添うことになったわけだが、こんな騒ぎになるとは予想もしていなかった。請負屋でのやり取りを見て、バルクライはモモが請負屋で働いていたことを知っている、と推察はしているが、黙っていた立場としては申し訳ないものがあった。


 ……叱責は覚悟してるけど、モモはどこまで話してるんだ? 素直なのに意外なところで頑固さを発揮する幼女を思い浮かべて、カイは一度モモと相談する必要があることを頭に刻んだ。


──グルアアアッ!!


 まったく、考え事をする暇もない。道を疾走してくる狼型ウルフルクの害獣にカイは血で汚れた剣を構え直す。


「また新手かよ。どこからこんなに湧いてくるんですかね?」


「わからん。だが……狙われているようだな」


 バルクライがカイの背後でボソリと呟く。振りかえれば、背後からも害獣が迫って来ていた。大きな口を開き涎を飛ばしながら突進してくる。しかし、その背中が不自然に盛り上がり始める。ざわざわと逆立った灰色の毛が根元から赤黒く染まっていく。


「おいおい、まさか変異体イールかよ!?」


 カイは思わず驚愕の声を上げた。変異体イールとは、変異体害獣と呼ばれるもので、通常の害獣よりも体格が二倍近く大きくなり、その凶暴さは通常の害獣の数倍にも及ぶ。たった一体で村一つを壊滅したという逸話も残されているほど狂暴だが、数は少なく目撃されることも滅多にない。本来なら討伐に20人単位でかかる大物だ。


「そんなっ、イールが街に現れるなんて……っ」


「距離を取れ! 害獣の間合いに入れば一噛みで殺されるぞ!!」


 変異体に気付いた請負人達に動揺が走る。街に現れるなんて聞いたことさえなかったのだ。ただでさえ害獣が発生する異常事態が起こっているのに、その上に変異体害獣まで現れてしまえば更なるパニックは避けられないだろう。内心の焦りを隠せなくなってきたカイに、バルクライは冷静に指示を下す。


「完全変異する前に倒すぞ」


「了解!」


 カイとバルクライは同時に飛びかかると上と下から害獣の足と首を狙う。しかし、鋭い雄たけびが上がり、大きく跳躍した。二人の剣先は空振り、地面を大きく叩くこととなった


 ──グオオオオオンッ!! 屋根を押し潰すように着地した害獣は完全変異して、大きく空に遠吠えをする。空気を震わせる咆哮に、カイは思わず顔を顰めた。……間に合わなかったか! 屋根を踏みつぶしながら、その巨体が下に向かってくる。牙を剥き出しにして迫る害獣に、カイとバルクライはそれぞれ別方向に飛びずさって巨大な頭から距離を取る。


「やっかいな状況になったな」


「ですが、手がないわけじゃない。これだけ大きな騒ぎになってるんだ。そろそろ気付くはずですよ」

 

カイは空に細く上がる数本の黒煙を目の端で捉えていた。あれだけ立ち上れば、見回り部隊はもう異変を察知して対処に向かっているはずだ。倒すことが最良だが、最悪でも、この変異体害獣を足止め出来ればいい。グルルルルッと唸りながら、変異体害獣はじりじりと距離を詰めてくる。




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