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140、モモ、心配する~大きな危機には救世主が集うもの~前編

 桃子は請負屋さんの中に留まりながらも、そわそわと心配が止まらない! 外の悲鳴交じりの喧騒が怖すぎる。ひとまず請負屋さんの中で出来ることをしようと思って、戦いには向かない人達でせっせと避難場所と治療場所の用意をしていくことにした。


 サバクと門番は他の部屋に隔離されたようなので、安心して椅子とテーブルで簡単な仕切りを作っていく。即席だけどね、防御力はそこそこありそうな形に完成すると、受付のお姉さんがシーツと救急箱を五セットずつ持って来てくれた。さすが請負屋さん。緊急用に備蓄していたらしい。これで一応、治療場所も用意出来た。請負屋さんの内部には、この場所を守るために留まってくれた人もいる。その中にはルイスさん達、桃子達を助けてくれた救出チームもいた。


「いやぁっ、助けてぇっ!」


「姉ちゃん、こっちだ!」


「請負屋に飛び込んでっ、早く!」


 近くで上がった悲鳴に孤児院の子達が入口から叫ぶ。桃子も慌てて入口まで行くと、二匹の大きな狼に追いかけられていたお姉さんがこっちに走ってきていた。


「おいちゃん!」


「おうっ。お前等、助けに行くぞ!」


「お気をつけて! 手当ての準備をしておきます!」


 タオがそう声をかけると、ルイスさん達、救出チームが助けに飛び出していく。桃子はハラハラしながら、入口から暴れまわる狼と戦う請負人達の様子を伺う。


 唾液の滴る牙が、お姉さんを庇ったジャックさんに噛みつこうとする。それを剣で受け止めている間に、もう一匹が大きく飛んで鋭い牙を大きく見せつけて、飛びつこうとした。間一髪、後ろに回ったルイスさんが背中から剣を串刺しにする。見事な連携プレーだね!


 ギャンッ! グオルルルッ! 鋭い悲鳴が上がり、狼がのたうち回る。ジャックさんが剣を力づくで押し返し、もう一匹の狼の太い首を切りつける。ガアッ! と悲鳴が上がったのに、それでもなお、大きな口を開いて噛みつこうとしている姿は異様だ。灰色の毛皮に赤い染みが広がっていく。ひぃっ、怖い! 見ているだけでお腹も痛くなってくる。思わずお腹を押さえた桃子の目が突如柔らかなもので塞がれた。


「モモ様はあんなものを見る必要はございません」


「だけど、心配で……」


「大丈夫ですよ。請負人は口さがない者達にルーガ騎士団に入れなかった落第者の集まりと言われていますが、逆に言えば、入れる可能性があった者達でもあるのです」


 ギャアアアアンッ!! 獣の断末魔の悲鳴が上がった。桃子はビクゥッと思わず震える。あの、レリーナさん、心づかいはとってもありがたいんだけどね、暗闇が余計に迫力を出してます。おばけ屋敷ばりに怖い。柔らかな手をふにふにして、はずしてーと訴えていると、荒い足音が近づいてきた。レリーナさんの手がようやく外れる。お帰り、クリアな視界!


「手当てを頼みます!」


 ジャックさんがお姉さんをお姫様抱っこで抱えて帰ってくる。お姉さんは肩を噛まれたようで、服に滴るほど出血していた。タオがそっと肩の服をハサミで切り、消毒しながら傷口の様子を確認している。痛みに僅かに反応するものの、お姉さんは悲鳴も上げない。顔色は真っ青で、意識も朦朧としているようだった。


「幸い抉られてはいないようですが、噛み傷が深い。このままでは危ないかもしれません」


「あんた、神官なんだろう!? 治癒魔法を使えないのか!?」


「許可がないと使ってはいけない決まりがあるんです。けれど、僕はこのまま彼女を見捨てるなんて……出来ない」


 タオが決心したように呟くのを聞いて、桃子は思い出す。神殿の決まりで治癒魔法を使うには許可を取る必要があるはずだ。そして、決まりを破れば罰されることも。待って! そう呼び留めようとして、意識を失ってしまった女の人を見て口を噤む。だって、このままじゃお姉さんが死んじゃうかもしれない。


「使え。オレが責任を負うさ」


 桃子達の後ろで力強くそう言ったのは──ルイスさんだった。戸惑ったようにジャックさん達、請負人の視線がルイスさんに集中する。


「おいっ、ルイス。お前なにを言ってんだよ?」


「そうだぜ。それじゃあ、まるでお前も神官みたいじゃねぇか」


「……悪いな、お前等。黙ってたのは面倒事を避けるためで、他意はなかった。だが、外の状況を見た限りじゃ、どんどん害獣が増えてるみたいだ。もう出し惜しみしてる場合じゃないからな」


 ルイスさんはそう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。そして、桃子の頭をひとなですると、手の平を桃子のお腹に向けた。




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