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139、モモ、保護者様の心を知る~意外な繋がりは人の縁を生む~後編

「……やだ、やだぁっ!!」


「モモっ?」


「危ないっ、様子がおかしいです!」


「どうなさいました!?」


 心から強制的に引き出されていく不安や孤独感に桃子は混乱して、頭を両手で押さえて叫んだ。泣きたくないのに涙が溢れて止まらない。急に全部が怖くなって、発作的にその場から走り出す。けれど、素早く反応したカイの腕に捕まえられてしまう。タオに呼びかけられるのも、レリーナさんが慌てて駆け寄ってくるのもわかるのに、それが怖くてバタバタと必死に足を動かさずにいられない。逃げたい。この場からとにかく逃げたかった。誰もいない場所に隠れたい。心がコントロール出来ないまま、桃子は暴れた。


「──風の精霊よ、助力を!」


「──叩っ切るっ!」


 バル様が男に左手を突き出して精霊に呼びかけた。と同時に、ギャルタスさんがテーブルを踏み台にして高く跳躍する。振りかぶった剣と、風の渦が男に飛んでいく。直撃して吹き飛ぶかに見えた男は、二つの攻撃を身軽にかわして桃子に楽しそうに話し掛けてくる。


「モモちゃんの保護者達は過激だね。あぁ、まだ聞こえていないかな? 人間は自分を中心に世界を回している醜く浅ましい生き物だ。高潔を謳う人間ほどその本性は欲深い。孤児院の先生でありながら、金の為に子供を売り飛ばす、その男のようにね。だからこそ、面白いんだ。オレはね、モモちゃんに興味があるんだよ。いずれ、君の中の静かな絶望と真っ暗な孤独は心地いいものだと教えてあげるよ」


「うぅ……っ」


 じわじわと耳を侵す声に、頭がぼんやりしてくる。苦しい、辛い、その感情だけで心がぎしぎし軋んで、頭がおかしくなりそうだった。バル様が声を荒げる様子を曇りガラス越しに見ているように、感覚が酷く曖昧になっていく。


「モモっ、気をしっかり持つんだ。貴様この子になにをした!?」


「一番辛い感情を思い出してもらっただけだよ。王子様であり団長でもある君は、最悪の事態にはどっちを選ぶのかな? ただ一人の女の子か、この国の国民か」


「もったいぶらずにはっきり言ったらどうだ? あんたの正体が何者なのかは知らないが、ここは請負屋の領域だ。部外者にはさっさと出て行ってもらおうか!」


「焦らなくてもすぐにわかるよ」


──ウオオォォォォン!!


 男が答えた時、大きな獣の叫び声がした。外から人々が逃げ惑う悲鳴が響く。その瞬間、桃子の中で荒ぶっていた感情がピタリと止まる。あれだけ叫ぶように喚いていた苦しみや圧倒的な孤独感があっけなく霧散する。


「……あ……?」


「モモ?」


「カイ補佐官、モモの顔を少しこちらに向けさせてください。そうです。さぁ、目をよく見せて。焦点も……合ってるね。あぁ、本当によかった!」


「もう大丈夫ですよ。ゆっくり呼吸しましょう」


 暴れるのを止めた桃子に気付いて、タオが目をのぞき込んでくる。そうして正気を確認が出来ると、カイが安堵したように拘束していた腕を弱めてくれる。迷惑かけてごめんよ。そう言いたいけど呼吸が邪魔をして上手くいかない。はぁはぁと頑張って息をしてると、レリーナさんが背中を撫でてくれた。けれどこっちが落ち着いた代わりに、周囲がバタバタと慌ただしくなっていく。原因はすぐに判明する。


「野郎、消えやがったぞ!」


「あいつは一体なんだったんだ?」


「いや、それよりも外だ。なにが起きてる?」


 ざわめき立つ請負人達の前に、男の人が飛び込んでくる。その顔色は病人のように真っ青だ。慌てた様子で叫ぶように伝える。

 

「ギャルタスさん、大変だ! 街で大量の害獣が暴れてる!!」


「まさか、あいつの仕業か!?」


 ギャルタスさんが唸るように叫ぶ。どうしよう、次から次に問題発生だよ! 桃子が内心慌てていると、バル様が請負屋さん達の前に進み出た。その動きに合わせて、ルーガ騎士団の外装がたなびく。


「緊急事態のようだ。互いに協力できないか?」


「いいぜ、話の分かる奴は大歓迎だ。──皆、聞いたな!? 戦える者は外に出ろ! ルーガ騎士団と協力してオレ達で街を救うんだ!」


【おうっ!】


 ギャルタスさんの一声で、請負人の人達が外に飛び出していく。男女交えて屈強な人が多いけど、皆、やる気というか殺気が漲ってるみたい。想わぬ急展開だね。バル様が近づいてくる。桃子は涙をごしごし袖で拭ってバル様に顔を向けた。


 一回怪しい術かなにかにかかっているのに、またしてもいいようにコロコロ転がされたことが、ものすごく悔しいし、恥ずかしい。口をへの字にして、次こそは! 次こそは必ず打ち勝って見せようぞ!! と、格好つけた台詞で自分を励まして、心に居座る恐怖心を跳ね退ける。


「モモ、すまない。オレとカイは行かねばならない。モモはレリーナとタオと一緒にいるんだ。安全を確保したら迎えに来る」


「わかりました。モモ様のことはお任せくださいませ」


「ぼ、僕も自分に出来ることをします!」


 レリーナとタオが大きく頷くのを見て、桃子はおずおずとバル様に言った。


「バル様とカイとキルマに言わなきゃいけないことも、お話したいこともたくさんあるの。だから二人共、請負屋の人達と無事に戻ってきて」


「あぁ、必ず。──カイ、行くぞ」


「了解!」


 颯爽と飛び出していく二人を見送りながら、桃子は恐ろしさを押し殺して必死に願う。どうか皆が無事に帰ってきますように!




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