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136、モモ、保護者様の心を知る~意外な繋がりは人の縁を生む~前編

 騒然とした請負屋さんの受付前で、椅子に座った桃子はプルプルと震えながらおののいていた。ギャルタスさんが呼んでくれたお医者さんに怪我の治療をしてもらって、ふぅっとしてたらレリーナさんが言ったのだ。馬に同乗していた男の人に頼んで、すでにルーガ騎士団に連絡していると。叱られる心の準備がね、まだね、出来てなかったよぅ。


「……怒られちゃうかなぁ?」


「……えぇ、おそらく」



 レリーナさんの神妙な同意が切ない。まさかこんなことになるとは思ってなかった。バル様のお仕事を邪魔しちゃったかもしれない。それってつまり、キルマやカイ、他にもルーガ騎士団の団員さん達にも迷惑をかけちゃうってことだ。考えれば考えるだけ頭がぐるぐるして、心はしょんぼりしてくる。


「まだ痛いか? ごめんな、このくらいしかしてやれなくて」


 コップを片手に戻ってきたルイスさんが、桃子の頭を労わるように撫でてくれる。遠まわしな言い方だけど、人が多いこの場で治癒魔法を使えないことを謝っているのだろう。


「前に怪我した時の方が酷かったから、このくらい平気だよ」


「お労しいですわ、モモ様」


「怪我をしてるのはお嬢さんも同じだろうに。おいちゃんとしては、子供が怪我をするのは見ていて気持ちのいいもんじゃないよ。特に、モモちゃんくらいの年齢の子はなぁ……」


「私の怪我なんて大したものじゃないよ。ギルの方がよっぽど酷いもん」


 桃子はお腹の青あざと左頬がちょっと赤くなって腫れてるだけで、お腹はお薬を塗られて包帯をくるくる巻けば終了、くらいの怪我だ。


 レリーナさんも同じで頭に薬を塗って貰って包帯を巻かれてる。他の子達は縛られてた手首だけですんだけど、ギルは違った。服の下に現れた細い身体には無数の痣があり、それは周囲の請負人が顔を顰めるほど多かったのだ。今回の件より以前から、サバクに目につかない部分を殴られてたのだろう。本人は平然としてたけど、見てるだけで胸が痛くなる光景だった。


 たぶん、桃子がさっき感じたことをルイスさんも感じちゃってるんだろうね。本当はなんちゃって五歳児だし、純粋な心配を貰うとやっぱり申し訳なくなる。なにかを深く考えている様子のルイスさんを、なにも言えずに見つめる。


「助けられてよかったよ。孤児院の近くでジャックの奴が護衛のお嬢さんを見かけてな、気になって中の様子を伺っていたらしい。そうしたら、縛られたお嬢さんとモモちゃんが裏から馬車に運び込まれているのを発見した。それで、請負屋に飛び込んできたんだよ」


「ジャックさん?」


「どの方でしょう? 改めてモモ様を、そして私達をお救い下さいましたことにお礼を申し上げませんと」


「なんだ、あいつ名乗りもしなかったのか? モモちゃんもお嬢さんももう知ってる相手だぞ。ここでギャルタスに投げ飛ばされてた男で、さっきはお嬢さんと一緒に騎乗していた奴だ」


 あの時の人! どうりで見たことあったわけだね。衝撃の初対面だったから、桃子もうっすらと覚えていたようだ。


「意外な繋がりだねぇ」


「そうだな。まさかオレもあいつがモモちゃん達を助けることになるとは思ってなかったよ」


 コップが目の前のテーブルに置かれた。いつもなら五歳児の心が騒ぐままに、わーい、ジュースだぁ! って、飛び付いちゃうんだけど、今はね……バル様の無言の怒りを想像するだけで胃がきゅっとしてくるから、受け取ったコップをチビリと飲む。……あ、すんごく美味しい。ジューシーなオレンジを何個も絞ったように果汁が凝縮されてて、これだけでなんとなくお腹が満たされそうだ。


 つい、コクコク飲んでしまう。ふはぁっ、心が生き返るよね! お仕事終わりにビールを飲むのが最高だって言ってた千奈っちゃんのお父さんを思い出した。桃子の場合は事件終わりに飲むジュースは最高ってことかな? 心のままに満足のため息をついていると、ルイスさんが笑う。


「美味そうに飲むなぁ。ちょっとは元気が出たか?」


「うん、元気出た!」


「ようございましたね、モモ様」


 そうだよ。しょんぼり落ち込んでたら、助けてくれたルイスさん達にも悪いよね。立ち直りは早い方だもん! バル様にはしっかり怒られて、心配かけてごめんねって伝えよう。

 

 大きな決意をしていると、請負屋に荒い足音が飛び込んできた。


「モモ!」


 息を乱したバル様が団服でそこにいた。その目はすぐに椅子に座る桃子を見つけてくれた。周囲の請負人達のどよめきを他所に一直線に進んでくる。くっきりと眉間に皺を寄せた美形なお顔が怖くて、謝る勇気がしぼんでいく。椅子から動けずにいると、目の前で片膝をついたバル様にきつく抱きしめられた。ドクドクと脈打つ心臓はいつもより早い。


「生きてるな……」


「い、生きてるよ?」


「知らせを受けて心臓が冷えた。どうやら、オレは自覚していたよりもモモのことが大事らしい」


 心がきゅうってした。気持ちがぽわぽわして、恥ずかしさと嬉しさが込み上げる。どんな顔をしたらいいのかわからなくて、口元に力が入った。


「本当に、無事でよかった」


 ため息の混じる美声は疲れてるのか、いつもより少し低い。いい声過ぎて背筋がぞわわって震える。はぅっ、艶がある美声はフェロモン過多ですよ! なんて、ちょっと照れ隠しに思う。これは美人さんが釣り放題どころか、自分から釣りバケツに飛び込むレベルだ。そんな桃子の震えを力の入れ過ぎと取ったのか、バル様は腕を放すと、今度は優しく抱きあげられる。




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