134、バルクライ、知らせを受ける 前編
バルクライ視点にて。
その時、バルクライはルーガ騎士団執務室にて、害獣討伐の重要な要となる神官達と対面していた。
「お初にお目にかかります、バルクライ団長。私は次期大神官候補であられるガラバ・エイデス様の補佐ヒューラ・ルフと申します」
「私はドミニク・ビアンセです。ディアンナ・マイカ様からは、害獣討伐に向かって力を合わせたいとのお言葉をお預かりしております」
「ありがとうございます。しかし当人にお越しいただけないことが残念でなりません。団長も私も、お二方とはぜひ直接会ってお話をしたかったところです」
「ガラバ様もそう申しておりましたな。しかし今回は生憎と都合がつかなかったのですよ。そのお言葉はお伝えしておきましょう」
「こちらも多忙でして、都合がつかなかったことをお詫び申し上げます。けしてルーガ騎士団をないがしろにしているのではないことは、ご理解頂きたい」
キルマージの冷え冷えとした笑顔の当て擦りを、大仰な仕草と無表情でかわす二人は、それぞれの派閥が差し向けただけあり肝が据わっているようだ。腹の探り合いに一歩引いた三人目の使者にバルクライは話を振る。
「お前はどこにも所属していない者達の代表と考えていいのか?」
「は、はい! タオ・ザルオスと申します。その認識で大丈夫です。僕はどこにも属さない人達の代表で来ました」
他の神官に不審に思われないように初対面の振りはしているが、この青年こそ、モモが攫われた時に手助けしてくれた相手だ。まだ年若いが、今回は代表として来るとは予想外な応援だった。
「神殿内部の様子はどうだ? 大神官の失脚からしばらくなるが」
「ルーガ騎士団の方が見守ってくださったおかげで混乱事態は終息しました。ですが今はエイデン様派、マイカ様派、どこにも入らない者と分かれています。お二人のどちらかが大神官におなりになれば自然と纏まっていくと思いますが……」
言葉を濁すのは、二つの派閥代表者の目があるからだろう。内部に送り込んでいる者に報告は受けているが、やはり、思わしくない様子だ。バルクライはヒューラとドミニクに静かな目を向けた。
「害獣討伐部部隊に出てもらう人選は進んでいるのか?」
「えぇ。私達から十五人を派遣する予定でおりますよ」
「こちらも同じく十五人をお付けします」
「僕達のところからは約三十人ほど集まっています」
「……合わせても六十ですか。今回の討伐にはせめて八十は欲しかったところです。やはり次の大神官が決まっていないことが大きいようですね」
「そうはおっしゃいますが、一年前の討伐には六十二人で向かったのですから、少し減りはしましたが、それほど大きな違いはないのでは?」
「こちらとしては、慎重を重ねたい。手厚い守りがあれば団員が動きやすいと考えている」
「団長のおっしゃる通りです。どうか、もう少し増やすことを検討してくださいませんか?」
「上にお伝えすることは出来ますが、この場で明確にお約束はできませんな。団長様は王族であられますから、我等神官貴族一同はご協力するのもやぶさかではございませんが、中にはルーガ騎士団と言えども庶民の団員に同行することを否と申す者もございます。こればかりは強制することも出来ませんからなぁ」
「……大きな治癒魔法を使える神官は神殿内でも貴重な存在です。けして惜しむわけではありませんが、命がかかる場においてその覚悟のないものは却って足手まといになりましょう。ですから、こちらも『お伝えしましょう』とだけお答えしておきます」
でっぷり太った腹を突き出すように胸を張って答えるヒューラに、キルマの笑顔が凍えたものにスライドする。この傲岸不遜な態度に怒りを懸命に堪えているのだ。バルクライはため息一つで苛立ちを消滅させて、団員並に体格のいい実直そうな男を見据える。
ヒューラのようにあからさまに貴族としての傲慢な振る舞いこそ見せないが、バルクライ達の言葉を常に観察している様子から見ても、ドミニクは頭の切れる男のようだ。