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132、モモ、奮い立つ~困った時の助けは誰かを思いやる心だったりする~中編

「オレのも早く!」


「あなたは後です。モモ様、申し訳ありませんがギルを優先しますね。ギルの縄を解いてしまえば、後は二人で解いていけますから」


 我先にと言い出した男の子に言い聞かせて、レリーナさんは桃子を振り返る。大きく頷いて返事を返す。全然OKだよ! むしろ足手まといでごめんよ。本来ならこの中で二番目に大きいはずなのに、最年少さんになってる現実が辛い。


 今こそ十六歳の桃子に返っておいでよ! って叫びたい。実際、私が先に解放されても、五歳児の力では他の子の縄は解けない。それなら協力関係にあるギルの縄を解くべきだよね。力は女の子より男の子の方があるだろうし、焦ってる男の子よりレリーナさんは冷静なギルの方が助けになるって思ったのかな?

 不満そうな男の子は、それでも文句を飲み込んだようだった。うん、偉い!


「大丈夫。一緒に待てばすぐだよ?」


「別にっ、そのくらい待てる。そんなことより、この先は考えてるのか? 縄が取れたからって逃げられたわけじゃないんだぞ」


「私達が騒げば、馬車を止めて中の様子を確かめようとするんじゃないかなぁ? 外の人の人数が少ないなら飛びかかって悪者を成敗するの。それで、数が多い時は扉が開いた瞬間に体当たりして皆バラバラに走ればいいよ。誰かに知らせることさえ出来れば他の子も助けられる」


「外の人数は二人だ。サバクは孤児院に残ってる。人買いの奴ら、子供と女だからって甘く見て足も縛らなかったくらいだぜ。十分勝ち目はあるだろ」


 自由になったギルが、男の子の縄を切り始める。桃子にはレリーナさんが付いてくれて、手で縄を解いてくれる。固いから大変じゃないかなって思ってたんだけど、一瞬でした。レリーナさんこんなスキルも高いんだね! ずっと縛られてたから痺れちゃったよ。手首をサスサスしてる間に、皆の縄が解かれていった。


「これで、全員自由になりましたね? 相手が油断しているのなら、私とギルで対処出来るでしょう。けれど、私が無理だと判断したら、あなた達もギルもモモ様を連れて逃げなさい。その先でもしバラバラになった時は、人を見つけてルーガ騎士団本部に行き、モモ様のお名前を出すのです。そうすれば、必ず助けてくれます」


「……ギル、この人とその子を本当に信じて大丈夫なの?」


「あぁ。この二人はオレ達のことを助けようとして捕まったんだ。親にさえ捨てられて孤児院では売り物扱いだったオレ達に、ここまでしてくれた人間が他にいるかよ? 大人の言葉ばかりが届いて、オレ達みたいなガキの声はいつもかき消されていく。そんなオレの言葉を拾い上げてくれたのは、この二人だけだ。だからオレはこの二人だけは信じる」


 ギルの言葉には静かな気迫があった。本気で桃子達のことを信じてくれているのだ。その重みは子供達の顔から警戒の色を吹き飛ばした。


「……わかった。私達も協力するわ」


 女の子がそう言った瞬間、外でおかしな風音がした。ゴーゴーとドライヤーを耳元でかけてるような暴風音が聞こえてくる。同時に、馬車の中が激しく揺れて馬が大きくいななく。男達の悲鳴が上がった。


「な、なんだあれは!?」


「どうなってんだ! やべぇぞ、逃げろ!」


 馬車の震動が止まると、慌てふためた様子が伝わってきた。なにが起こっているのかわからないけど、馬車が止まっている。脱出するなら、今しかない!


「レリーナさん、ギル、どうにかして扉を開けよう!」


「はいっ。このボロ具合なら、蹴りつければ扉を壊せるかもしれません。モモ様、その子達と一緒に離れていて下さい。──はぁっ!!」


 言われた通りに他の子達と後ろに集まると、レリーナさんが勢い良く足を振り上げた。風がなるほどの蹴りに力を乗せて振り抜き、ブーツを扉に叩きつける。ドォンッ! と音がして馬車が一瞬揺れた。扉が軋み、目に見えて簡素な扉が撓んだ。その蹴りの迫力に、頬とお腹の痛みを一瞬忘れる。レリーナさん、かぁっこいい……っ! 


「もう一回! やぁっ!!」


 ミシミシと木製の扉が悲鳴を上げる。しかし、そこは簡素と言っても馬車の扉なだけあって壊れるまではいかないようだ。



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