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129、モモ、潜入する~どんなにピンチでも悪者に心の白旗は振りたくないよね!~前編

 ギルの協力を取り付けた桃子は、その場にレリーナさんを呼んでこれからどうするかを話し合うことにした。その中でギルが重要なことを口にする。近々、何人か子供を人買いに売るとサバクが言ったというのだ。それが何時なのかわからないため、桃子達は一刻も早く動くべきだと判断した。


 三人が立てた作戦はこうだ。まず、レリーナさんがサバクの気を引くために表から訪問する。その隙に桃子とギルは孤児院の裏から入り、証拠の帳簿を手に入れるのだ。その後にレリーナさんと合流してバル様の元に直行すればいい。これなら危険な目には合わないはずだ。


 でもまったくないわけじゃないから後で怒られるかもしれない。うううぅ、見過ごせないからね……バル様、本当にごめん! 眉間に皺を作るだろう美形なお顔を思い浮かべて、心の中で両手を合わせて謝っておく。こうして桃子達は三人で馬に乗り、孤児院に向かったのであった。



 孤児院の玄関に向かうレリーナさんの背中を見送り、お子様組である桃子とギルは細い路地をひた走り孤児院の裏口からこっそりと中に潜入した。先導役のギルが裏口の扉を開けて中に顔を突っ込み様子を伺う。そして手で合図が送られてきたら、桃子の番だ。後を追いかけてこっそりと孤児院の中に入る。ここまでは順調だ。そう思って息を抜いたのが良くなかったのか、左奥の部屋からギルよりニ、三歳年上に見える男の子が出てきてしまう。


「ギル? なんでまだ居るんだよ。早く請負屋に行かないとサバクにまた殴られるぞ」


「しっ! 静かに。あいつに見つかっちまう。いいか、オレ達のことは見なかったことにしろ」


「なに言ってんだ? オレ達って、お前の他に誰が……」


「あのー、こんにちは」


 ギルの背中からひょっこり顔を出すと男の子の目が驚きに丸くなる。そして焦ったように廊下を見回して他の子がいないのを確認して、声を潜めた。


「お前、この子どっから連れてきた!?」


「説明してる時間がないんだよ。そこをどけって」


「ふざけんなよっ。お前が勝手なことするとオレ達まで酷い目に遭うんだぞ!」


「皆を助けるためなの」


「助ける? ギル、まさかお前。孤児院(ここ)のことしゃべったのかよ?」


「バレてもオレ達が八つ裂きにされるだけだ。お前は知らなかった振りをすればいい。他の奴は部屋に籠ってるんだろ? チビ達は特に絶対廊下には出すなよ」


「くそっ、わかった。けど、オレはなにもしないからな!」


「腰ぬけめ。早く行っちまえ!」


 ギルは舌打ちすると、引き攣った顔で逃げる男の子に、追い打ちをかけるように暴言を吐く。年上の子でさえ及び腰で逃げるように離れて行ったのに、ギルの目はより一層ギラギラと暗く光っている。強い子だなぁと桃子はそんな場合じゃないのに感心してしまった。


「チビ、早く来い」


「……うん」


 同じ二文字なんだけど違うよ。マイネームイズ、モモ! 正しくは桃子だけど! と内心思いながらもお口に×しておく。私のことを嫌い過ぎて名前を覚えられてないのかも。せっかく協力関係なのに、ちょっと切ない。


 二人は廊下を走って客室に向かった。先導するギルがいてくれて助かった。一度来た限りだから、孤児院の内部はうろ覚えだったのだ。キシキシと音が鳴る廊下を右左と曲がって一度入った扉の前に立つ。今頃レリーナさんが会話を引き延ばしているはずだ。


「オレが廊下を見張るから、チビが中から帳簿とやらを取って来い。なるべく早くしろよ。もしサバクが近づいてくるようならノックを二回するから出て来い」


「うん!」


 ギルに扉を開けてもらうと、桃子はするりと部屋の中に忍び込んだ。そして一直線に目的の棚に突進する。もおおぉぉっ、まるで赤い布に突撃する牛のようだ。今日は早さが重視だから本を引っ張って背後に放り投げる。いつもはこんな乱暴なことしないからね。物はけっこう大事にする方だよ? 幼稚園から使ってるハサミが元のお家にはあったもんね。


 ちょっと心の中で言い訳して中を一気に空にしていく。そして本棚の奥の壁を動かして開くと目的の帳簿が見えた。恐る恐る手を伸ばして、帳簿を手に入れる。よかった、場所を移されてなくて!




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