128、モモ、答え合わせを望む~いがみ合うより手を取り合えば大きな力になるの~後編
「私には親っていうのがよくわかんないんだよねぇ。だから、それだけで黒って決めつけるにはちょっと根拠が足りなかった。だけどね、孤児院に寄付しているお家の子が先々月にもお金を寄付してるって言ってたんだよ。なのに、ギル達の服を買えないわけがないもんね?」
ダレジャさんの熱い人柄を見るに、きっと快く大きな金額を寄付してくれたはずだ。はっはっはっと白い歯を煌めかせるダレジャさんを想像する。冬も寒さ知らずに元気そうだ。
「お前、本当に子供?」
「えっ!?」
ちょっと逸れたことを考えていたらギルに突っ込まれた。空色の目が桃子を鋭く見ている。疑わしそうにじっとりと見られて、冷や汗がじわっと背中に浮く。
「たったそれだけのことでそこまで思いつくなんて、普通じゃないだろ。お前、変。孤児院のチビはもっと子供だぞ」
「ご、五歳だよ? それにギルだって似たようなものじゃない?」
「……まぁ、オレには関係ないからどっちでもいいけど」
めちゃくちゃ怪しまれてます! 倒れかけた五歳児の張りぼてを必死に支えるけど、興味が失せたように半眼を逸らされた。セ、セーフなの?
「話を戻そうね! ギルが否定しないってことは、サバクさんのことは合ってたのかな?」
「そんなこと孤児でもないお前には関係ないだろ。それとも自分が裕福な暮らしをしてるから、面白がってるのか? 知ってどうする気なんだよ?」
「えぇっと、そう、交換条件! 孤児院のことを解決するかわりに私の依頼書を返してほしいの!」
冷えた目を戻されたので、咄嗟に思いついたことを伝えてみる。ただ手助けしたいと申し出てもギルは絶対に拒否する気がしたのだ。うん、意外と名案なんじゃないかな? けれど、ギルは馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「解決なんか出来るかよ。サバクの奴がやってるのはな、お前やオレには絶対に解決出来るレベルの問題じゃない。奴はオレ達を売り物として扱ってるんだからな!」
「まさか子供を売ってるの!?」
「これでわかっただろ。ガキの手に負える話じゃねぇんだよ。お前の保護者だって下流か中流の貴族だろ? 奴が取引してる相手には上流貴族もいるんだ。だから、オレ達がどんなに訴えても簡単に揉み消されて、もっと酷い目に遭う。お前の依頼書は捨てた。残念だったな? 取引はどっちにしても出来ないぞ」
ギルが吐き捨てたのは人身売買の現実だった。昏い目を地面に落とすと、木の柵から飛び降りた。桃子はそのまま去ろうとする小さな背中に待ったをかける。
「私の保護してくれてる人なら中流貴族より立場は上なの! それに犯罪関係にも強いから絶対に助けてくれる。だから、サバクさん、ううん、サバクの罪を暴くためにも、孤児院の皆を助けるためにも、私と一緒に証拠を手に入れようよ!」
「……中流以上って、本当なのか?」
「嘘じゃないよ。それに証拠になりそうなものは、もう知ってるの。孤児院に行った時に見つけた帳簿がたぶんそう」
「お前の依頼書はもうないってのに、どうして関係ないオレ達のことを助けようとするんだよ」
「私自身に力はないけど、頼りになる知り合いがいて、助けられそうな立ち位置にいるからだよ? それに知ってる子達が辛い目に逢ってるのに、見なかった振りをするのは、なんかヤダもん」
忙しい時期にすんごく心苦しいけど、証拠さえバル様に渡すことが出来れば、きっとすぐにルーガ騎士団として対応してくれるだろう。証拠は隠滅される前に確保しなきゃだし、そうすれば、バル様にかける迷惑は最低限で収まる、はず!
「依頼書のことは今はいいよ。全部終わってからまた話そう。今は協力するのかしないのか、ギルの返事が聞きたいの」
「……孤児院のことはオレ達の問題だ。だから、今回だけ手を結ぶ。今回だけだからな!」
桃子が差し出した小さな手を、そっぽを向いたままギルの手が包んだ。




