125、モモ、眠気を堪える~異世界でのお茶会は女子会みたいなものかな~中編その二
「そんなに遅かった? ごめんね?」
「もうもうもうっ、朝一番にいらしてくれてもよろしかったんですのよ!? わたくしずぅーっと朝から待っておりましたのに、なかなかいらっしゃらないんですもの! もしかしてお忘れになられてるのかしら、と思ったくらいですわ」
「わたしも今日楽しみにしてたの。だからまた会えて嬉しいよ」
「た、楽しみになんて、別にしておりませんわ! わたくしは貴方が遅いから待ってさしあげていただけですもの!!」
「うんうん。待たせてごめんね。お部屋に入れてくれる?」
「仕方ないですわね。入ってもよろしくってよ!」
頬を真っ赤にして照れたように中に入れてくれる。これぞツンデレ! 可愛いなぁ。にこにこしながら入室しようとしたら、レリーナさんに呼び止められた。
「モモ様、私は隣室に控えさせていただきます。もしなにかありましたらお呼びくださいませ」
「え? う、うん……わかったよ」
「それでよろしゅうございます」
桃子にこっそりと呟いたレリーナさんが、静かに微笑む。一緒じゃ駄目なの? って言葉をごくんと飲み込んでおく。この世界では身分というものが存在するから、元の世界での常識と違う部分もある。バル様に迷惑かけないように気をつけなきゃ。レリーナさんと手を振って別れると、ミラに招かれて室内に入る。
扉の先にあったのは、お姫様の一室! 金色のシャンデリアの下にはクッションが敷かれた二脚の桃色の薔薇が彫り込まれた白い椅子と、猫足の同色の丸テーブルが置かれており、床は真っ白な大理石とこれまた赤いカーペットが敷かれている。扉の右側には木製の巨大な棚があり、ガラス越しに大小のテディベアのぬいぐるみがこれでもかと並べられているのが見えた。好きなんだね?
「可愛いお部屋だねぇ」
「ふふん。そうでしょう? ここはわたくし専用のお客様室ですのよ。セッティングは完璧ですわ! モモはここにお座りなさいな」
「ひょわ!?」
ご満悦のミラに突然抱っこされた。そして厚いクッションの上にちょこんと下される。椅子に登れないと思ったのかな? ミラ用のお子様椅子だから普通の物より一回りコンパクトでこっちも部屋の主同様に可愛い。
「なかなかお手紙をくださらないんですもの。わたくしから送ってしまいましたわよ。今度はモモの招待をお待ちするわ」
「大きなお仕事が終わったらバル様もいいよって言ってくれると思うの。そうしたら、バル様がお休みの日に合わせて招待するね?」
「バルクライ様のお休みに……本当ですの!?」
さすが恋する乙女だ。反応が素早い。テーブル越しに顔を寄せられたので、桃子も内緒話をするように伝える。
「うん、本当」
「うふふふふふふ、楽しみですわ。バルクライ様の休日のお姿を拝見できますのね」
「うふふふふふふ、喜んでもらえて私も嬉しいの」
妖しい笑い声を上げてミラが喜ぶので、桃子も一緒に笑ってみた。二人の子供が笑い合う姿は傍から見ればほっこりするのかなぁ? 頭の中でタヌキの先生が首を振る。……え? なんか違う雰囲気がする? ホラー系な? ……気のせいだよ!
「そうそう害獣討伐と言えば、お父様のお友達の地方領主の方が数日前にお屋敷に来たんですの。来る途中、害獣に襲われて大変な目に遭われたそうよ。護衛がいくら反撃しても息絶えるまで襲うのを止めなかったとお聞きしましたわ」
「怖い話だねぇ。バル様達、大丈夫かなぁ……」
「それは心配ないでしょう? あの名高いルーガ騎士団ですもの。害獣討伐は毎年の風物詩みたいなものですわ。わたくし達はお屋敷で旦那様の帰りを待つ奥方のように、動じることなく信じて待てばよろしいのよ。それに、仲はよろしくないそうだけど、庶民からは請負人なる者が討伐に参加するとも聞きましたわ。両方で討伐すればすぐに終わりますわよ」
「ミラは情報通だねぇ」
「当然ですわ! 貴族の淑女たるものこのくらいは知っておかなければ。モモは幼いからこれからお勉強するのではなくて? わたくしのお話を聞いておけばお勉強する時にも助けになると思うわよ」
「うん。教えてくれてありがとう」
桃子が素直に頷いていると、扉からノックの音がした。ミラが答えれば、案内してくれた執事さんが入室してくる。