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123、モモ、眠気を堪える~異世界でのお茶会は女子会みたいなものかな~前編

「モモ様、モモ様、起きてくださいませ」


「んぅ……れりーな、さん……?」


 優しく肩をトントンされて、桃子は目を覚ました。重くて仕方ない目をなんとか瞬いて、鈍い舌を動かしながらいつもより小さなベッドに身体を起こす。目の前にはメイド服姿のレリーナさんと、その後ろに三人のメイドさんが待機している。


 周囲を見回して、ようやく現在地を思い出す。ここは自室でもバル様のお部屋でもない。桃子が今いるのは使用人室(メイドさん用)であった。なぜメイドさん達のお部屋でレリーナさんのベッドに寝ていたかというと桃子はここ数日、すこぶる寝つきが悪かったためだ。原因はわかってるんだけど、対処のしようがないんだよねぇ。だってその原因って、バル様と一緒に眠れなくなったからなんだもん。


 あらかじめ伝えてくれたように、バル様は休み明けから今日までお屋敷に帰って来ていない。きっと、帰る時間がないくらい忙しいんだよね? だけど寂しい。五歳児の精神に思いっきり引っ張られてるみたいで、ほんとに寂しい。夜もなかなか熟睡出来ないんだよ。眠いのに寝られないって野菜だけのご飯と同じくらいに苦行だね! それで、昨日はレリーナさんのお布団にお邪魔した。


 ここ三日、どうしても眠れなくて、桃子は昨夜とうとう自室のベッドを抜け出してたのである。そしてバル様のお部屋のシーツを強奪すると、いつぞやのように頭から頭巾のように被って、てるてる桃子になりながら階段の一番上でバル様を待ってみることにしたのだ。


 もしかしたら夜中に帰ってくるかもしれない。一度そう思ったら、階段から離れたくなくなっちゃったんだよねぇ。それで、どうなったかと言うと、不審者極まりない幼女は、優秀なメイドさんに確保されました。レリーナさんが添い寝してくれるというので、ちょっと恥ずかしかったけど甘えさせてもらったのだ。メイドさん達が共同で暮らす暖かいお部屋はほんのり甘くていい香りがしてるよ。


 いつも一緒のバル様がいないから、桃子の中で五歳児が寂しがっているのだ。十六歳の桃子としては、やっぱり情けないし恥ずかしいんだけどね。五歳児は今も眠さにぐずっている。でも、今日はミラとのお茶会の日なのだ。五歳児でも女の子だもん。女子力を見せなきゃ! というわけで、眠気に半分しか開かない目を頑張って瞬くと、気合を入れてベッドから降りる。


「モモ様、まだ眠たそうですね。私共の部屋ではあまり眠れませんでしたか?」


「ううん、一人の時よりずっと眠れたよ。一緒に寝てくれてありがとう、レリーナさん」


「眠れない時はいつでもお越し下さいませ。私は可愛い寝姿を拝見出来まして、大変幸せでございました」


 頬を赤く染めて恍惚としてる。美人さんだし可愛い表情なのに……あのね、私は好きだよ? レリーナさんとっても優しくて助けてもらうことも多いもん。理想のメイドさんだと思うの! だけど、せっかくクール系美人さんなのに、なぜ桃子が関わるとこうも残念になってしまうのか。メイド兼護衛さんの言動は今日もブレがなく、絶好調のようだ。


 昨日までは、保護者様の下した罰を守って、お屋敷に引きこもって文字のお勉強をしたり、メイドさんに遊んでもらったりして過ごしてたけど、今日からはお叱り期間も終了したから、外に出てもいいんだよね。お屋敷の中でも寝付きが悪いだけでそれ以外はのびのびしてたから、こう、学校のテスト後の解放感みたいに、自由だぁーっ!! って感じにはならないんだけど、お部屋の空気はおいしい気がする。


「まずはお顔を洗いましょうか。僭越ながら、台代わりは私にお任せを!」


「ふふふ、そちらはレリーナさんにお任せしましょう。わたくしは、お茶会用に特別なお召物をお持ちいたします」


「でしたら、わたしは御髪おぐしをお整えしましょう」


「では、こちらは装飾品をご用意しますわ」


「手が足りてしまいましたわね。……私は、ロンさんにモモ様がこちらにいらっしゃることをお伝えしてきます」


 最後のメイドさんがちょっぴり寂しそうに言った。このメイドさんも皆と一緒に、着せ替え桃子をしたかったのかもしれない。着せ替え人形と化す桃子からするとちょっと大変なんだけど……うん、着る物があるだけありがたいことだよね! 贅沢に甘えちゃダメだよ! 贅沢は敵です! ワンモア? ゼイタクはテキ!! 頭の中で答えて自分を叱っておく。


 レリーナさんを筆頭にメイドさん達にもいつも良くしてもらってるから、すんごく申し訳なくなってきちゃう。思わずそのメイドさんの長いスカートの裾を掴んだ。しっかりと綺麗なお顔を見上げる。


「モモ様? なにかご用がおありですか?」


「あの、あのね、いつも助けてくれてありがとう。メイドさん達がいるから、毎日楽しく過ごせてるの」


「まぁぁ!」


「あらあら」


「良かったですね。お仕えしている方に、こんなお言葉をかけていただけるなんて、メイド冥利に尽きますよ?」


「えぇ、レリーナさん。ありがとうございます、モモ様。わたくし、ロンさんにお知らせしてきますわ!」


「うん? お願いします?」


 返す言葉が思わず疑問形になっちゃったのは、そのメイドさんのお顔がパアアアアッと明るくなったからだ。これ、あれだよね。即効性の栄養剤でも飲んだみたい? 上品さは損なわないハイテンションって初めて見たよ。ロンさんびっくりしちゃうんじゃないかな。でも、元気がないよりはいいよね?


 レリーナさんにそっと背中を押されて、桃子は洗面所に足を動かす。


「モモ様、私達に全てお任せください。どこの国の姫様にも負けないほど愛らしくいたしましょうね?」


 熱の籠った言葉に、桃子は心の中で覚悟を決めた。それはまさに、第二回着せ替えショー開幕の宣言であった。




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