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120、バルクライ、部下と飲み交わす 前編

バルクライ視点にて。

 慣れない魔法訓練に疲れたことと、夕食を食べて腹が満たされたせいか。ミラから手紙を貰ったのだと楽しそうに話していたモモが次第に目を擦り始めた。眠いのを我慢しているのだろう。目を細めてパチパチと瞬きを繰り返している。


「限界のようだな」


「まだ、だいじょぶ」


 モモはそう答えるが、言葉が舌っ足らずでふわついている。バルクライはソファから幼女を抱き上げて、自分の膝に乗せる。トントンと背中を叩いてあやしてやれば、大きな黒い目が眠気にとろんと溶けてくる。胸が温かな熱を持ち、穏やかな心地だ。


 このまま寝てしまうかと思えば、途中で我に返ったように不満そうな顔をして、ぐりぐりとバルクライの肩に額を擦りつけてくる。よほど眠りたくないらしい。……猫のようだな。


「お姫様はおねむかい? 無理しないで寝ておいで」


「みんな、いる……」


「気持ちはとても嬉しいですが、子供は夜更かしするものではありませんよ」


「もっ……と……」


 小さく囁きかけられてさらに眠気に誘われたのか、モモの瞳が瞼に隠れていき、間を置かずに、胸元にことんと小さな頭が寄りかかってきた。顔を覗けば、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。小さな口が少し開いていて愛嬌がある。


「寝室に寝かせてくる。待っていてくれ」


 バルクライは二人にそう言い置いて、応接間を出た。光の精霊の力で廊下は明るい。起こさないようにゆっくりと歩いていれば、レリーナが早足で近づいてくる。


「よろしければ、私がモモ様をベッドまでお連れいたしましょうか?」


「いや、オレが連れて行く。代わりに、三人分のコップと軽いツマミを用意してくれ」


「えぇ、わかりました。すぐにお持ちいたします」


 レリーナの一礼を受けながら、バルクライは階段に足をかけた。昼間、モモから話を聞いたバルクライは、その訴えを汲んで彼女には注意をするだけに留めた。実際こちらにも非があるのだ。レリーナとロンにはモモが加護持ちであることは伝えているが、異世界から来たことは教えていない。


 それは、情報の広がりを抑えるためであったが、今回はそれが裏目に出てしまったようだ。請負屋は子供でも働ける場所だ。モモの場合は例外だが、加護持ちは届け出さえしなければ普通の子供と傍目にはわからない。つまり、本来ならば働くことに支障はなかったはずなのだ。


 しかし、言い訳一つせずに頭を下げたレリーナは、やはりモモに対する忠誠心が強いことが見て取れた。幼女が来てから、屋敷の使用人達も以前より生き生きと働いていると、ロンに報告を受けていたが、落ち着いた物腰のレリーナの変化は中でも著しいものがあったようだ。……素直な性格が、心を掴んだのか。


「それがお前の武器だ」


 自室の扉を片手で開くと、バルクライはモモをそっとベッドに横たえた。シーツをかけてやりながらしばし見つめる。無邪気な寝顔は何も知らないまま、穏やかな眠りの中もいるようだ。神をも惹き付ける魅力は周囲の人間にも影響している。しかし、それを本人だけが自覚していない。大人の顔色を伺うことには長けても、好意を向けられると戸惑うことが多いようだ。


 その意味を考えると、うっすらと、泥水を飲んだような不快な気分になる。モモが元の世界でどういう育てられ方をしたのか、想像が出来るからだ。だから、バルクライは思う。元の世界で甘えが許されない環境だったのなら、この世界で存分にバルクライに甘えればいいのだ。それこそ、本当に傍を離れられなくなるほどに。バルクライは口端で笑むと、まろやかな額に口づけを落として、寝室を出た。


 下に降りる前に書庫に寄り、二人に振舞う酒びんを棚から取る。【嘘吐きな蜜(バ・ブルガ)】と呼ばれる上等な蒸留酒だ。濃厚な果物の香りと蜂蜜を使っているのに甘ったるさはなく、舌を痺れさせるスパイシーな口触りが魅力の酒である。酒は嗜む程度のバルクライが、気が向いた時に好んで飲むくらいは気に入っている。これなら酒飲みのカイも満足するだろう。


 蜂とリンガの描かれた酒びんを腕に抱いて一階に戻れば、すでにレリーナは仕事を終わらせていたようだった。


「おっ、いい物を持ってきましたね! オレその酒にお目にかかるのは久しぶりですよ」


「どんな物なのです?」



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