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113、モモ、初めての依頼を達成する~幼児の時の痛みは大きくなってからより強いの?~後編

 ルイスさんの言う通り、請負屋さんには知らせるべきなんだとは思う。だけど、十歳のギルだけを悪者にしてお金を受け取るのは、なんか違うよね。


 桃子は俯いていた顔を上げて、ルイスさんの顔を見上げる。


「……ううん。請負屋さんには知らせないで。確かに悪いことをしたのはギルだけど、私も気に障ることをしちゃったの。それに自分でちゃんと解決出来るように頑張りたいから、お金はいらないよ」


「本当にいい子だなぁ。よし、おいちゃんはその心意気を買おう! それでも、もし自分だけじゃ無理だと思ったら、いつでも言いにおいで」


「うん! ありがとう、おいちゃん」


 呼び方にちょっと照れが出ちゃった。でも、そう呼んだらルイスさんが口端を上げる。琥珀の目が和むととっても優しい顔になるね。


「店にあるのを持って来ましたけど、これで足ります?」


「ありがとよ。さぁ、まずは手から見ような」


 店員さんが清潔そうな白いタオルと水と救急セット一式を持ってきてくれた。ルイスさんはそれをテーブルに置くと、桃子の前でしゃがんで転んだ時にとっさについた両手をじっくりと見ていく。手の平が赤くなってるだけで、こっちは大したことはない。ルイスさんもそれがわかったのか、しぼったタオルで軽く両手を拭いてくれた。


「こっちは良さそうだ。次が本番だな。傷口を洗わなきゃいけないから、沁みるぞ、用意はいいか?」


「ん…………ひゃぐぅっ!!」


 こっくり頷いたら、そろりと濡れタオルが右膝に触れた。激痛が奔り、桃子は悲鳴を上げる。続いて左ひざも拭われる。口を必死に引き結んで両手を握って必死に耐えても、涙がボロボロと出ちゃう。ふうぅぅ、痛いぃ! 拭われて、膝を綺麗にすると、血がにじんでくる。我慢我慢我慢んんっ!! 


「……こんなもんだな。さて、傷口は綺麗になった。モモちゃん、今からすることは誰にも内緒だぞ?」


 そう言うとルイスさんは人目がないことを確認して桃子の膝に右手を翳した。なにをしてるのかな? 桃子はじんじん痛む膝をまじまじと見下ろす。


「光の精霊よ、助力をこう」


 ルイスさんが雨が大地にしみ込むような声で呟いた。その瞬間、どこからか微かな白い光が集まり、桃子の膝に暖かな熱が降り注ぐ。すごいキラキラしてるよ! それが消えていくと、膝の怪我がさっきよりずっと小さくなっていた。元の傷の3分の1くらいだ。


「おいちゃんは魔法使いだったの?」


「ははっ、治癒魔法をほんの少しだけ使えるのさ。だが、このことはおいちゃんとモモちゃんだけの秘密にしてくれ。教会に目をつけられるのもやっかいだからな」


「うん、誰にも言わないよ! 治してくれてありがとう」


「今度は転ばないようにな」


 ほとんど治ったけど、ダミーのためにも傷薬とガーゼと包帯を巻いてもらい、桃子はすっかりご機嫌になった。初めての治癒魔法を体験しちゃったよ! ぽかぽかして、とっても優しい力だねぇ。心を弾ませていると、入り口でバーンッと音がした。驚いて振り向けば、ぜぇぜぇと濁音の呼吸をしているレリーナさんが必死の形相で店内を見回していた。


「ありゃあ、モモちゃんの護衛か」


「うん。ギルを追いかける時に置いてきちゃったの」


「ご無事でしたか、モモ様! 心配したんですよ」


 いろいろあったせいで忘れちゃってたけど、桃子の美人な護衛さんはずっと探してくれていたようだ。レリーナさんが真っすぐに突っ込んでくる。ルイスさんがさっと横に逃げると、桃子はしなやかな両手でふわっと抱きしめられた。はぅ、お胸が……って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。


 大きなお胸に埋まりかけた顔を上げてレリーナさんに謝る。


「ごめんなさい。勝手に追いかけちゃって」


「ご無事ならようございます。ギルはどうしましたか?」


「逃げられちゃった。でも、ちゃんとお話したいって思ってるの」


「私は反対です。あの様子では危険がないと言い切れません。請負屋に連絡してお任せしましょう。モモ様になにかあってはご主人様が悲しみますよ」


「お願い、レリーナさん! 解決する努力をさせてほしいの。ギルともう一度だけちゃんと話をさせて。もしそれでもどうにもならなかったら、その時はちゃんとギャルタスさんに言うから」


「……わかりました。無理な時は請負屋に任せる。約束ですよ?」


「はいっ」


 びしっと返事を返すと、レリーナさんがようやく小さな笑みを浮かべてくれた。それだけ心配かけちゃったってことだよね。


「我儘言ってごめんね」


「いえ、私も差し出がましいことを申しました。しかし、わかってください。私はモモ様をけして傷つけたくはないのです。怪我をされては心が痛みます」


 レリーナさんの抱擁からは解放されたと思えば、包帯の巻かれた両足に痛ましげな視線が向けられる。大げさだから骨折でもしてそうに見えるけど、ちょっぴり傷があるだけだからね。なんちゃって大けがに見えちゃうね。


「大丈夫! ルイスさんが治療してくれたからそんなに痛くないよ」


「モモ様がお世話になりました。ありがとうございます」


「いやいや。こんな美人にお礼を言われるなんておいちゃんからすれば役得だよ。小さい子は衝動的に動きやすいからな。よく見てやんな」


「えぇ。ではエマさんとリジーに改めてご挨拶に行きましょうか。二人共心配しているでしょうからね」


 桃子は深く頷いて椅子から降りた。目標はギルを捕まえて話をすること! だけど、その前に今はお店に戻らないとね。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただいています。五歳児モモちゃんかわゆい。バル様嫉妬萌え。 [気になる点] レリーナがいつも遅れを取るのは「お約束」なんでしょうか。 護衛としての判断がいつも緩すぎて、ただ…
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