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111、モモ、初めての依頼を達成する~幼児の時の痛みは大きくなってからより強いの?~中編

 お花屋さんのお仕事も最終日。今日もエマさんにお昼ご飯をもらった桃子は、元気いっぱいに午後の作業場でせっせと仕事に励んでいた。作業台には編んだ花冠が小さな山となっており、良い香りがしている。


 作業台を間に挟んで正面には、リジーとギルが花束を包んでいるのだが、桃子は昨日から花冠担当だ。これがなかなかの売れ行きなそうで、エマさんがとても喜んでいた。指を動かして、最後の花冠を編み終えると、小さな手をぱちっと合わせた。


 指がちょっと疲れちゃったからぷるぷる振ってみる。疲れよ、飛んでけーっ。その時、鐘が三回鳴った。もうそんな時間だったんだねぇ。無事に依頼達成である。名残惜しさもあるけど、清々しい気持ちで心が浮き立つ。


「終わったーっ!」


「良かったですね、モモ様。お疲れ様でした」


「レリーナさんもお疲れ様! 最後まで付き合ってくれてありがとう」


 作業台の傍まで来てくれたレリーナさんを見上げてお礼を言ってると、エマさんがニコニコしながら店頭からやってきた。


「皆さん、今日までお疲れ様でした。三人が来てくれてとても助かったわ。売り上げもいつもの三倍に増えたのよ。これ、よければ持って帰ってちょうだい」


 そう言って差し出されたのは、小さな黒い布袋だった。桃子は中身が気になって耳の横に当てて振ってみた。布の中でシャリシャリと音がする。うーん? 軽くて、小さくて、固い? 


「ふふっ、モモちゃん、中身がなんだかわかる?」


「この音は……お花の種!」


「当たり! そう、お花の種よ。なんのお花かは咲いてからのお楽しみね。気が向いたら植えてみてちょうだい」


 わーい、当たった! これぞ、名推理! えっへんとレリーナさんを振り返ると、微笑みながら頷かれた。素敵なサプライズに心があったかくなる。桃子は小さな布袋を握りしめた。バル様がいいよって言ったら、お庭に埋めさせてもらおう。それまで失くさないように大事にしないと。


 ちらりと作業台を挟んで斜め向こうを見れば、ギルが無表情で布袋を見下ろしていた。孤児院のお庭に埋めることを考えてるのかな? 結局、今日も朝の挨拶したら睨まれちゃったし、お昼に話しかけても無視されて終わっちゃったんだよね。本格的に嫌われちゃってるみたいで悲しいけど、私だけが仲良くしたいって思ってても仕方がないもんね。


 だけど、孤児院のことがはっきりしないから、やっぱりギルとは別れることになってもここで終わらすことは出来ない。なにかが引っかかってるんだけど、それがなにかわからないから、思わず、うにゃあああっ!! って叫びたい衝動が込み上げてくる。


 これ、五歳児がモヤモヤを発散したがってるんだろうね。はい、落ち着いてー。うぅぅ、モヤモヤが止まんないよぅ。バル様のお腰にぎゅっとしがみ付きたい。そうしたら幸せになれそう。

 

 リジーがエマさんに頭を下げる。


「今日までありがとうございました、エマさん。大変でしたけど、楽しい体験をさせてもらいました。また依頼が当たった時はよろしくお願いしますね」


「えぇ。その時はよろしくね。三人共、お片付けは私がするから依頼書をもって来てちょうだい。サインを書くわ」


 エマさんの言葉に、桃子はレリーナさんが持っててくれた依頼書を、リジーとギルは自分のポケットに入れていた依頼書を取り出す。


 エマさんの前に三人で並んでサインをもらう。一番最初にリジーが、次にギル、最後に桃子がエマさんに名前を書いてもらう。これで本当に依頼完了だね。ちょっぴり寂しいなぁ。そう思っていたら、後ろから依頼書を抜き取られた。


「あっ」


「孤児院まで来てんじゃねぇよ!」


 ギルは暗い目で凄むと、桃子の依頼書を持ったまま作業場から走り出していく。突然のことに周囲の反応が遅れた中、桃子は咄嗟にその背中を追いかけていた。


「いけません、モモ様!」


「ごめん、レリーナさん。すぐに帰ってくるから!」


 護衛役のレリーナさんにそう返事を返して、作業場を飛び出した。依頼書を取り返さないと、プレゼントが出来なくなっちゃうよ! 桃子の頭にあったのはそのことだけだった。




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