110、モモ、初めての依頼を達成する~幼児の時の痛みは大きくなってからより強いの?~前編
子供達の話を聞いた限りでは、限りなく白に思えた。大人びたエミリオがはっきりと否定した事実があるし、隠していた名簿っぽいものも、ちゃんとした理由があって子供達に見られないようにしていたのかもしれない。
時間がなくて中をしっかりと確認出来なかったのが悔しいけど黒と断言するだけの証拠はないし、現状は限りなく白、つまりサバクさんはひとまずいい人ってことでレリーナさんと意見が一致した。だけど、なんかモヤモヤする! どこかすっきりしない気分を抱えたまま、桃子とレリーナは孤児院を後にすることになった。
「今日は訪れて頂きましてありがとうございました。孤児院の状態はご理解頂けたかと思います」
「有意義な時間でした。寄付がどうなるかは私には判断出来かねますが、お聞きした状況は我が主にご報告させていただきます。それでは、私共はこれで失礼いたしますね」
「さよーならー」
「お嬢様、もしここをお気に召しましたら、ぜひまた遊びにいらしてください。子供達も喜びますから」
「ピティもたのしかったよ。お、おとうさまがいいよっていったらまたあそびにくるね!」
嘘も方便だけど、やっぱり苦手なんだよぅ。なんとか答えられたけど、言葉に詰まりそうになったのは誤魔化せたかな?
「えぇ。いつでもどうぞ」
サバスさんが穏やかに微笑んだ。突っ込まれなかったからセーフ? あぁ、でも普通の五歳児が相手ならあんまり気にしないよね。桃子は手を振って別れを告げると、レリーナさんと一緒に道端で馬番をしてくれていた男の子に近づいていく。
「ご苦労様。約束のお金よ」
「まいどあり。見かけたら声をかけてよ。オレいつもこの辺にいるからさ」
レリーナさんが自分の皮袋から銅貨を7枚出して渡す。男の子は愛想よく笑って離れていった。この国では馬番を子供に頼むことは普通らしい。木に縛り付けたりもあるけど、盗まれちゃうことがあるからちゃんとした場所にあずけるか、こういう方法を取るんだって。面白いね。
桃子はレリーナさんに抱き上げてもらって馬に乗ると、お花屋さんに向かうことにした。
「ねぇ、モモ。昨日ケーキ屋さんでルーガ騎士団の補佐官と一緒だった?」
桃子がお花屋さんに行くと、先に来ていたリジーにそう聞かれた。エマさんはお庭で花冠に使うお花の準備をしており、レリーナさんは桃子の足りない背を補うために木箱を取りに行ったので今は作業場に二人きりだ。
灰色の目が桃子を真剣に見つめている。カイもルーガ騎士団の補佐官だから有名人なんだろうし、気付かなかったけどあの時目立っちゃってたのかも。優しいし格好いいから、女の子なら好きになることもあるよね。……もしかして?
「カイのこと好き?」
「まさか。ルーガ騎士団の役職付きなら誰でも顔くらいは知ってるわよ。モモといたから目立ってたし、どんな関係なのかが気になっただけ」
「あのね、私を保護してくれてる人のお友達なの。とってもいい人だよ!」
躊躇いのなさすぎるさっぱりした否定だから、本当に好きなわけじゃなさそう。気づかなかったけど、ケーキを食べてた時も目立ってたのかな? 言われてみれば、カイは補佐官さんだもん。顔だって知られてるよねぇ。
「可愛がってもらってるのね」
「うん! 仲良しだよ」
大きく頷く。桃子は三人のことが大好きだ。あんなに良くしてくれて感謝しかないよ。直接言うのはちょっと恥ずかしいからなかなか言えないけど。にこにこしてると、リジーの目が優しくなった。
「二人共こっちに来てちょうだーい」
「はーい!」
「今行きます!」
エマさんの呼び声に桃子達は同時に返事を返して、二人で顔を見合わせた。リジーが手を差し出してくれる。
「それじゃあ、今日もよろしく」
「うん。リジーとも仲良しだね」
明るく笑うリジーの手に小さな手を繋いで、桃子達はエマの呼ぶ庭に続く扉を開いたのだった。