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109、モモ、観察する~小さい子がわちゃわちゃしてると可愛さが倍増する~後編

 サバクさんが身体をずらすと、四人の子供がいた。十二、三歳くらいの大人しそうな男の子と、ギルと同い年くらいのしっかりしてそうな女の子、その子の服の裾を掴んだ七歳くらいの男の子、さらにその後ろに半分隠れている小さな女の子。


 と言っても、今の桃子より一回りは大きい。たぶん、この子は今の桃子と同じ年くらいなのだろう。幼稚園児だった時、私って他の子と比べてもちんまりしたサイズだったんだよねぇ。この子は平均的な体格なのかな? だったら食べる物にも事欠くってわけじゃなさそう。よかった。お腹が空くのは悲しくなるからね。

 

 服装は着古したのがよくわかるほど布がすり減っており、やはりほつれがあったり穴を縫った後も見える。けれど、団子状態で身を寄せている三人に桃子の平らな胸がきゅんとした。子ウサギが身を寄せ合ってるみたいで、すんごい可愛い。どの子もいい子そうだし、ぎゅってしたくなる。


「ぼくはエミリオと言います。この子から順番に、アライア、チグ、ルーチという名前です。お嬢様、よろしくお願いします」


 四人が頭を下げてくれるけど、そこには子供っぽい無邪気さがまるでない。お嬢様なんて呼ばれたし、緊張させちゃってる? 今すぐ言ってあげたい。怖くないよ! 私全然怖くないから! 


「よろしくね。いっしょにあそぼう」


「は、はい!」


「エミリオ、遊ぶのは庭先でだよ。そこならこちらからも見えますし、レーファさんも安心でしょう?」


「えぇ。ピティ様、私はサバクさんと難しいお話をいたしますね」


「はぁい。ピティはあそんでる。おにわにいちっばーん!」


「あっ、ずるい! オレ2番!」


「やだ! わたしのがさき!」


 桃子は子供らしく返事して、外に繋がる扉に向かってダッシュする。そのノリに引っ張られたのか、チグとルーチが競うように追いかけてきた。


 そうなると慌てるのはおそらく面倒を見ているエミリオとアライアだ。


「こらっ、お嬢様に向かってずるいはダメ!」


「失礼します!」


 エミリオは最後にしっかりとレリーナさんに頭を下げて追いかけて来た。これで子供だけで話が出来る。サバクさんの目が届く範囲であっても、庭の奥にいけば耳までは届かないはずだ。


 今こそ五歳児精神を解放する時! 桃子は走ったことで楽しくなってきたので、本能のままに笑う。ただ走っているだけなのに心が弾む。もう楽しくてしょうがない。この楽しさって、大きくなるとわからなくなる感覚だよね。


「あははっ、いちばんとった!」


 奥の木の幹に小さな手をぺたっと押し付けて宣言する。バル様、やったよ! 心の中でこっそり伝えておく。今頃お仕事で忙しくしてるかなぁ。後少し待てば1日一緒にいられる。それが今からとっても楽しみ。


「ターッチ! 2番取れた!」


「おにいちゃんずるい! わたしのにばん」


 ただのお遊びだけど小さな子はすぐに本気で遊び出すからね。チグが地団太を踏んでいる。おにいちゃんと呼ばれたルーチは口をむっと歪めて首を振る。


「オレの方が先だったんだから、チグは3番」


「やだぁっ!」


「3番だっていいじゃない。チグ我儘言わないの。お嬢様もいるんだから皆で仲良くして」


「わがままちがうもん!」


 頑固に訴える様子が本当に可愛い。まるで大事に隠しておいた宝物を奪われたと言わんばかりだ。しかし、チグの顔は次第に赤くなり、大きな茶色の瞳に涙で潤んでいく。泣かせてしまうのも可哀想だ。桃子は助け舟を出すことにした。


「じゃあ、もういっかいやる?」


「ひっくっ、も、もっかい?」


「そうだよ。そうしたら、こんどはいちばんになれるかもしれないよ?」


「チグやる!」


 泣きそうな顔がやる気に満ちたものに変わる。うんうん。可愛い。可愛いって言葉しか思い浮かばないくらいに可愛い。小さな子ってあんまり深く考えたりしないから、ちょっと他に気を逸らしてあげると。泣き止むのも早いんだよね。


中学生の時に幼稚園の子達と遊ぶっていう体験学習があって、泣き出した園児におろついてたら、保母さんがそうやって上手にあやして泣き止ませたんだよね。覚えていてよかった。


「そんなの卑怯だぞ。やり直しはなし!」


「いいの? あなたもいちばんになれるかもしれないのに?」


「やっぱりやる」


 桃子がそう聞くと、言われて気付いたのか、はっとした様子で首を大きく縦に振った。この子もやっぱり1番が欲しかったんだね。ラッピングして二人に運動会とかでよくある1番の旗をあげたくなった。こんなに熱くなってるなら、すごく喜んでくれそう。


「チグ、ルーチ、ですますをつけて! お嬢様、二人共言葉をまだ知らないので許してください」


「僕も謝ります。お嬢様どうか怒らないでください」


「おこらないよ? ふつうのほうがたのしい。ふたりもいっしょにあそぼ」


 青い顔で頭を下げる年長者組に桃子は緩く笑って答える。煌めけ、スマイル! にこーっと笑顔を向ければ、二人から力が抜けた。警戒が解けたみたい。これで話も聞きやすくなったかな。


「ちゃんとしないとサバクさんにおこられるの?」


「そんなことはないよ! サバク先生はとっても優しい人で、身寄りのない僕達の面倒を見てくれてるんだ。だから、怒ったりはないよ」


「サバク先生がいなくなっちゃったら、私達どこにも行く場所がないもの」


 アライアが悲しそうに俯く。きっといろんな事情があるんだろうね。行く場所がないって言葉が胸に刺さる。立場は違うけど桃子もバル様達がいなければどこにも居場所がない。この世界では薄くとも繋がりのあった両親さえいないのだ。


「なんさいまでこじいんにはいられるの?」


「十六歳までだよ。それまでは請負屋で働くことが多いんだ。中には、裕福な家に引き取られる子もいるよ。……運が良ければ」


「そうなんだ。こじいんをでたひとはあそびにくることある?」


「来ないわ。孤児院は遊びにくるような場所じゃないもの」


「なにしてんだよーっ。早くやろうよ!」


「はしるの! エミにぃ、ぴぃーっていって」


 扉の方に向かいながらチグとルーチが呼んでいる。二人共全力で走る気満々だ。


「大声を出さないの!」


「チグとルーチが待てないみたいだから、お嬢様も向こうに行こう」


「うん。こんどもわたしがいちばんとるもん」


 まだ聞きたいことはあったけど、あんまり根掘り葉掘り探りすぎると警戒されちゃうかもしれない。この辺で引き上げよう。桃子は無邪気な子供の振りをして元気よく走り出した。




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