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11、モモ、サービスシーンを拝む~酒豪は漢字が格好いい~後編

 モモは抱っこされたまま門をくぐった。

 中に入ったら下ろしてもらった方が……バル様に視線を向けられた。あっ、なんでもないよ?

 要塞に入ると団員の人達の視線を一身に集めることになった。シーンとしてるけど、バル様もカイも気にせず奥に進んで行く。


 受付カウンターから身を乗り出している茶髪のお兄さんに、バル様の首越しにこっそり手を振っておく。目が落っこちちゃいそうなほど驚いてた。


「バル様って心読める?」


「読めないな」


「モモ、安心していい。この世界で人の心を読める人間はいないからね」


 冗談だと思ったのか、カイが声を殺して笑う。喉がくっくっくっと鳴っている。でも、それにしてはタイミングが良すぎるよ。バル様は勘が鋭いのかなぁ。


 美しいお顔を見上げると、目が合った。


「顔が素直過ぎる」


 感情もろ出しってことか!? 私のプライバシーを私が公開していたとは。私の心はシャッターが壊れてるんだね。どうしよう。もう、お面でも被るしかないかな、これ。


「別に一言一句わかるわけではない」


「それなら、まぁいっか」


「ははっ、その素直さはおちびちゃんの美徳だな」


 褒められたのかな? そう思っていると、白い扉の前でバル様が足を止めた。

 ノックを二回する。


「ターニャ、居るか?」


 バル様が扉を開くと、裸の上半身が出迎えた。


「あ?」


 両耳にたくさんピアスをつけたパンクさんが、振り返る! 男らしい顔立ちの人だ。身体は切り傷の痕が多いけど、腹筋割れてます。不意打ちの眼福ですね。これ、どんなサービス? 

 

 桃子と視線が合う。二人して、まじまじと見つめ合う。照れるね。思わずはにかみながら笑顔を向けると、ちょっと驚かれた。

 パンクなお兄さんは気を取り直したように、デスクによりかかってバル様にいやらしく笑いかける。


「よう、団長さん。隠し子たぁ、やるじゃねぇか。どこの女に産ませたんだ?」


「…………」


「ディー、団長に絡むなよ。お前非番じゃなかったか? なんで医務局に居るんだよ?」


「非番でしたー。けど飲んでたら客同士の喧嘩に巻き込まれたんだよ。全員シバき倒してやったけどな」


 上半身裸のまま、パンクさんはガーゼを当てた手を上げてみせた。と思えば、デスクに載せていたビンをラッパ飲みする。ごくごく喉仏が動いているのが、男らしい。


 バル様とカイが室内に入ると、お酒の匂いが漂って来た。この人、医務室で飲んでます!

 カイが呆れたようにずかずかと近づく。


「お前仮にも隊長なんだからよ、あんまり騒ぎ起こすなって」


「オレの周りで騒ぎ起こす奴等がわりぃのさ。で? どんな女だ?」


 デスクにどんっと酒瓶を置いて、パンクさんがニヤニヤとバル様に絡む。


「女はいない。オレが産んだ」


「げっほっ!?」


 バル様が真顔で答えると、パンクさんは盛大にむせた。そのままゴホゴホとせき込むのを、仕方なさそうにカイが擦っている。

 むせさせた本人はしらっとした顔で、部屋の中を見まわす。


「冗談だ。それでターニャはどこだ? この子の検査を頼みたい」


「呼んだかい?」


 隣室から出てきたのは六十代くらいのおばあさんだった。白髪の交じった頭をお団子にしている。厳しい眼差しをしているが、その顔はパンクさんを見た瞬間に修羅になった。


「ディーカル! ここで酒を飲むなって何度も言ってるだろ!?」


「かてぇこというなよ、ババァ」


「ババァたぁなんだいっ! このバカ弟子が! 治療が終わったならさっさと出て行きな! まったく、怪我ばかりしてくるんじゃないよ!」


「わーかった。わかった。オレァ、飲み直してくるわ。カイ、今度飲みに行こうぜー、そん時にでも詳しい話を聞かせろよ」


「おう。またな」


 ベッドに投げていたシャツと酒ビンを手に、パンクさんが出て行く。その足取りはしっかりしていた。あれだけ勢いよく飲んでたのに、酔った様子がないのがすごい。酒豪って呼ばれる人なのかも。


「それで? その子供はどうしたんだい?」


 おばあさんの目が鋭く光る。ごくり。桃子は自分が問いただされたわけではないのに、思わず喉を鳴らした。私、どうなっちゃうの?


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