108、モモ、観察する~小さい子がわちゃわちゃしてると可愛さが倍増する~中編その二
廊下を進むと、講堂のような部屋が右側にあった。両開きの扉が開かれていたので通りがかりに中の様子が少しだけ見えた。明るい部屋の中には椅子とテーブルが片付けられて奥に積まれている。その光景が桃子にはなんとなく物寂しく思えた。
廊下のちょうど真ん中にあるのがサバクさんの目的地であたるようだった。扉を押し開くと、サバクさんが脇に立ち、二人に室内に入るようにエスコートしてくれる。
「ソファに座ってお待ちください。子供達を連れてきましょう」
穏やかな顔で微笑むと、廊下の扉が閉ざされる。足音が遠ざかっていく。桃子はそれを聞きながら周囲を観察する。
経営に難があるという予想は当たりだったのか、事務室兼接客室は質素な様子だった。古くてクッションがへたったソファが2つと、ローテーブルが1つ。背の低い本棚とその上の花瓶。書類整理に使っているのか奥に古びた机があった。机、かぁ。刑事ドラマでよくある展開を考えてみる。悪役が重要なものを隠すとしたら……。
「机の中に秘密があることが多いんだよね」
「あり得そうな話です」
他人様の物を漁ることには躊躇いがあるけど、この場合は必要だよね! 桃子はレリーナさんと目を合わせて頷き合うと、さっと室内を物色していくことにした。時間はあんまりない。サバクさんが帰ってくる前にチェックを終了しなきゃ。
レリーナさんが引き出しを開けていくので、桃子は本棚を見ることにした。隙間があるので桃子の力でも簡単に本を抜くことが出来る。桃子は本の間になにか挟まっていないか確かめていく。はずれ、はずれ、これもはずれ。パラパラめくりながら最後まで確かめたけど、なんにも見つからなかったよ。残念。本を床に置いて、机の中を捜査中のレリーナさんを振り返る。
「こっちはなにもなさそうだよ。そっちはどう?」
「特に重要そうなものはありませんね。孤児院にいる子供の名前と年齢、身体的特徴が書かれたカルテと、雑費を記したノートがあったくらいです」
「うーん。じゃあ、サバクさんはいい人?」
「今の所は悪い人の要素が見当たりません。ですが、まだ断定するには早いかと。子供達と会ってから考えましょう」
「そうだね。子供と話せばいい人か悪い人かわかるかも。サバクさんが戻ってくる前に直しちゃおう」
桃子は頷きながら、床に置いた本を再び本棚に戻そうとする。その時、本棚の壁にあたる部分に本が当たり、カコッと何かが外れる音がした。
「うん?」
本棚の中を覗いてみると壁側の板がずれていた。その板を外してみると、中に青い表紙の本が見入っていた。手に取って中を開いて見ると、そこには十名ほどの名前が並んでいた。バーク、アイオス、ガラン、ゴーリオ……。全然聞き覚えのないものだ。名前じゃなくて呪文とか? 桃子の頭に、悪魔的動物の祭壇の前で黒いマントを翻し、はーははははっと不穏に笑うサバクさんの姿が浮かぶ。
やけに似合う気がするけど、違うよね? そんな想像から気を取り直して、さらに名前を読み進んでいけば、下から三番目に見覚えのある文字を見つけた。
「グロバフって、ミラのお家?」
「モモ様、足音が!」
首を傾げた時、レリーナさんがはっとした様子で警告してくれた。耳を澄ませば確かに足音が近づいてきている。桃子は慌ててその本を隠し場所に戻して、本棚を元通りに整えていく。あ、あれ? 引っかかっちゃった!?
慌て過ぎて本が上手く入らない。その間にも足音がどんどん近づいおり、扉の前で止まった。
レリーナさんの手が重なり、本棚に本を押し込むことに成功する。そして扉が開いていく瞬間に、桃子を抱え上げてソファに飛び込んだ。
「お待たせしました。子供たちを連れて来ましたよ。君達、お二方にご挨拶を」
勢いでソファがちょっと弾んでいたけど、サバクさんは特に気付かなかったようだ。後ちょっと遅かったらアウトだったよ。心臓がバクバクしてる。本当に危なかったね!