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107、モモ、観察する~小さい子がわちゃわちゃしてると可愛さが倍増する~中編

「それはそれは。有り難いことです。私がこの孤児院の経営者のサバクと申します。ところで、そちらの……お嬢様は?」


 サバクの言葉に間が空いたのは桃子が庶民と同じ格好をしているからだろう。今日のお洋服は緑の膝丈ワンピース。腰の所できゅっと締まって、スカートが段になってて動くとふわってなるのが可愛い。腰のとこにもお花の刺繍が小さく入ってるのがポイントだよ。


 孤児院に行くからキュロットスカートはお休みして、ちょっとだけお洒落さんにしてもらったんだけど、ぱっと見は庶民と一緒に見えるんだよね。でも布地はスベスベだからお高いと思う。たぶん、お値段を聞いちゃうと震えるくらいには。だけどミラみたいなドレスじゃないし、お嬢様オーラもないから、えっ? ってなるのもわかる。


「この方はお嬢様のピティ様です。孤児院では子供が多いでしょう? お嬢様ほど幼い貴族のお子様はこの街には少ないのです。ですから我が主はお嬢様が同じ年頃の子供と遊ぶ機会をお求めになられてもいるのです。私とお話をする間、お嬢様に孤児院の子供達と遊ばせることは出来ませんか?」


「……しかし、お嬢様に失礼があってはいけませんし……」


「この孤児院には、それほど乱暴な者がいるのですか?」


「いえっ、とんでもない! 素直な子供ばかりですよ。そうですね、それでは落ち着きのある子供を数人呼んできましょう。庭先で子供達が遊ぶ様子を見ながら、私と貴方様でお話いたしましょう」


 サバクさんが一つの案を出す。レリーナさんが目でどうするかを尋ねてくれたので頷いてにっこりと笑顔を向ける。


「ありがとう、サバクさん。ピティともいっしょにあそんでくれるかなぁ?」


「もちろんですとも。孤児院の何もないところではございますが、どうぞ中にお入りください」


 サバクさんは人の良さそうな顔に穏やかな笑みを浮かべて、扉を大きく開いて中に二人を招いてくれた。外観のおどろおどろしさとは裏腹に、内側は綺麗だった。キシキシと鳴る廊下は色は褪せているが、毎日磨いているのか温もりのある光沢を出している。


 桃子が二人に続いて歩いていると、通りがかった部屋の前が細く開いて、奥から裾の解れた服を着た七歳くらいの女の子がこちらを不安そうに覗いているのと目が合う。女の子は慌てた様子でパタンと扉を閉める。小さな話し声が聞こえてくるから、部屋の中に何人かいるようだ。


 本当は声をかけたいけど今は止めておこう。警戒されているみたいだし。桃子は足を止めないままサバクが後ろを向いている隙に周囲をよく観察しておく。壁も綺麗だし、中に入っても特別、孤児院って感じはしないね。子供の声も聞こえてこない。部屋にこもっちゃってるのか、まだ寝てる子もいるのかもね。


 それにしても上手く内部に潜入出来てよかった。これもレリーナさんのおかげだね! 最初はどうやって経営者と接触しようか頭を悩ませていたのだ。私が迷子か捨て子の振りをすれば、孤児院だから簡単に潜入は出来そうかなとは思ってたんだけど。


 それを話したら、レリーナさんに絶対に駄目だって止められちゃったんだよね。もし相手が危険人物だった場合、入っても出てこれないかもしれないって。ホラーな展開にひぇってなった。そもそも一日でも無断外泊したら大騒ぎになっちゃうかな。バル様過保護気味だからね。今回のことも、心配かけたくないからあんまり詳しくは話してないのに、深入りはしないように、なにかあったら相談してくれって言われた。バル様の勘がお仕事をしたの? 鋭いとこを突かれてどきどきちゃったよ。


「サバクさん、速度はゆっくりでお願いしますね。ピティ様、大丈夫ですか?」


「これはすみません。このくらいでいいでしょうか?」


「うん、ちょうどいいよ。レーファもありがとう」


 レリーナさんが速度を落とすように言って、周囲を観察する時間稼ぎをしてくれた。咄嗟の思い付きなのかもしれないけど、本当に頭がいいよね!


 偽名は、桃子から桃=ピーチってことで、そのままじゃ呼ばれるたびに頭に果物の桃が思い浮かんじゃうから、少し変えてピティにしたんだよね。こうすることで、バル様に迷惑がかからないように予防線を張ったことになる。


 レリーナさんはレーファって偽名にしてみた。両方とも私が考えたんだけど、レリーナさんが目を潤ませてうっとりと喜んでいた。あだ名みたいで嬉しかったの? 元の名前も可愛いと思うよ?



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