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106、モモ、観察する~小さい子がわちゃわちゃしてると可愛さが倍増する~前編

 馬に乗るのもそろそろ慣れてきたね。桃子はレリーナさんの腰に腕を回して、ゆったりと揺れていた。ふくよかなお胸を頭に感じながら、進んだことのない道に心を弾ませる。


 いつもの通りからは離れているため、見える景色も随分と違う。真新しい店を見かける度に楽しくなる。一番最初にバル様に乗せてもらった時の名付けて馬の顔は怖いよ事件が印象的過ぎてちょっとしたトラウマになっていたけど、今は結構平気かも。よく見れば可愛い目をしてるもんね。


 バル様の持ち馬はどの子もしっかりと躾られているようで、レリーナさんの指示にも素直に従っている。乗馬姿も馬と一体になって走っているみたいだ。ファンタジーな世界で馬に乗ってるっていうだけでも十分に格好いいけど、美人さんが華麗に騎乗する姿を見ると、ファンタジー映画を見ている気分になる。


 その風貌だけでもレリーナさんはヒロインになれそうだもんね。ちんまりした桃子はせいぜい脇役の妹くらいしか似合いそうな役がない。外を走りまわって速やかに退場していくことで演技終了です。全然見せ場がないよぅ。監督、私に見せ場を下さい! 心の中で叫んでみる。


 アピールポイントは演技は2種類の演技が出来ることかな。お子様役と軍神様役です。あ、十六歳も出来るから3役になる? でも十六歳は演技というより元からだから違う?


 後ろに駆け抜ける景色の中でそんなことを考えていると、馬がゆっくりと速度を落として道を何度か曲がる。店が立ち並ぶ道から逸れて、民家が立つ路地を進んでいるようだ。後ろ座りをしている馬上から前方に首を向ければ、木製だったり煉瓦造りの家が見られる。家先の庭で洗濯物を干す女性や、舗装された道で追いかけっこをしている子供もいた。生き生きしている様子が、見ていて気持ちがいい。

 

 その内に他の家よりも横に広い長屋を思わせる建物が姿を表した。こちらは建築年数がだいぶ経っているのか、雨風にさらされたためか、元は白かったのだろう外観が灰色がかって見えた。正面からは壁に穴などは見えないが、おばけが出そうなおどろおどろしさがある。

 

 レリーナさんはその建物の近くで馬を止めた。


「ここが……」


「えぇ。ここがギルの住んでいる東の孤児院です。随分と廃れていますね」


「うん。そんなに経営が厳しいのかなぁ?」


 でも、昨日バル様から少し聞いた話によると、東と西の二つの孤児院には貴族が時々寄付をしているって聞いたんだよね。寄付をすることで庶民との間に摩擦を生まないようにしているとも言える。立場によってはそれが贔屓と見られてしまい、庶民の間で不満が生まれることがあるために、バル様はあえてしていないとも言っていた。ルーガ騎士団師団長の前に王族でもあるから気軽に寄付するのは難しいんだろうね。


 レリーナさんに馬から降ろしてもらうと、桃子はごくりと息を飲む。一応お宅訪問になるけど、出来るだけギルには会わない方が良さそうだ。


 背の低い桃子に代わって、レリーナさんが扉についた鉄の手すりを握って打ち付ける。ガンガンッと重い音が響く。電車にある手すりに似ているけど、これがチャイム代わりのようだ。


「はいはい。どちら様ですかな?」


 すぐに内側から誰かの歩く音が聞こえてきて、扉が開かれた。孤児院の中に居たのは四十代前半くらいの眼鏡をかけた男の人だった。服装はこざっぱりしており、男の人にしては細身で人の良さそうな顔をしていた。


「おや、見慣れないお客様ですね。どうしました? 孤児院に何か御用ですか?」


「朝早くから失礼いたします。私はとある方にお仕えしている者なのですが、我が主が孤児院へ興味を持たれまして、今後ご寄付をする可能性がございますので、今回は経営者に私が顔通しを頼まれました。ご本人はいらっしゃいますか?」



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