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105、モモ、なでなでしてもらう~撫で方は違っても嬉しくなるのに変わりない~

 昨日から降り続いた雨は今朝になってようやく止んだ。お屋敷から外に出れば、太陽が一日ぶりの顔を見せていた。


 団服に身を包んだバル様がお屋敷の外に出る。その腕には桃子がちょこんと座っていた。昨夜、お互いに焼きもちを焼くほど相手を見ていることに気付いたため、この距離が今は気恥ずかしい。ちろりと見上げれば、黒曜石の瞳が桃子を甘やかな目で見下ろしていた。その視線にどきっとして、目を逸らす。


 外にはお見送りのロンさんやレリーナさんを筆頭にしたメイドさん達の姿もある。周囲の温かな視線に晒されて、五歳児なのに不思議なほどどきどきしてしまう。


 なんだか今日はいつもより離れがたくて、騎士団のお仕事にバル様が行っちゃうのも寂しい。困ったなぁ。ゆっくりと床に下ろされて、足に飛びつく。五歳児の精神が離れたくないとぐずっているのだ。うぐぐ、行かないでって言いたい! 言っちゃ駄目だけど、言いたい。


「モモ、顔を上げて見送ってくれないか?」


「……うん」

 

 寂しさを堪えて顔を上げても、いつもより猛烈に寂しくて心もしょんぼり萎れている。心配させないようにそんな気持ちを隠して、見送りに出ているロンさんやレリーナさん達と一緒に頑張って笑顔で見送る。


「お気をつけて行ってらっしゃいませ。」


「いってらっしゃい、バル様。早く帰ってきてね!」


「努力する。今日もいい子にな」


 バル様はそんな桃子の気持ちをわかっているように頭を一撫でしてした。優しい撫で方に、萎れた心が水を与えられたようにちょっぴり元気になる。寂しいけどここは我慢だ。バル様は手綱を器用に操ると、馬に騎乗したまま、お屋敷から走り出て行った。


 バル様の姿がすっかり見えなくなったのを確認して、心を落ち着かせる。今度は桃子達がお見送りをされる側になる番だ。桃子は昨日の夜に書き上げたお手紙をロンさんに差し出した。


「私達も今日はちょっと早く出るね。ミラにお返事を書いたから、これをロンさんにお願いしてもいい?」


「かしこまりました。しっかりとお届け出来るように手配しておきましょう」


 膝を折って丁寧に受け取ってくれる姿がやはり紳士だ。渋いね! お手紙の内容は、お礼の言葉と喜んでお招きを受けたいこと、それから都合がいいのなら、1週間後くらいにどうかな? と書いた。今日のお仕事が上手くいけば、プレゼントの準備をして、暫くはのんびり出来ると思ってのことだった。


 読むことは出来ても書くのはまだまだ下手なので、桃子は書いた文章をバル様にチェックしてもらっていた。そうしたらやっぱり字が鏡文字になってたり、片言になっていた部分があったようで、その部分はバル様に上の空白部分に付け足しで書き直してもらったのだ。


 まるで先生に作文の間違いを直してもらったみたいだね。それをお手本にしてもう一度清書として書き直して、二回目のチェックでこれなら大丈夫だと言ってもらえた。でも今の桃子の文字は読めるけど、文字が苦しんでる。バル様は謎の理解力ですらすらと読んでくれたけど、普通の人だと読みにくいよねぇ。今日のお花屋さんでのお仕事が終わったら文字のお勉強をもっと頑張ろうっと。

 

 バル様もダレジャさんにお茶会のお誘いについてお礼状を書いていた。お仕事増やしちゃってごめんねって言ったら、このくらい仕事の内には入らないって言ってくれた。でも忙しそうなのは桃子でもわかるから、騎士団がお休みの日はのんびりさせてあげたい。


 バル様からも出かける前に渡されたのか、ロンさんが内ポケットに手紙を入れる時に、もう一通入っているのが見えた。……こんなこと言えないけど、私もバル様にお手紙を書いたらお返事くれないかなぁってちょっと思っちゃったんだよね。忙しそうだからそんなことしないけど!


 心の中で五歳児が口に指を加えている。ダレジャさん、いいなー。私も欲しいー。……我慢我慢。本能に負けちゃダメ。だって、十六歳だもん!五歳児の気持ちを振り切って、桃子は名残惜しく見つめていた手紙から視線を逸らす。


 お屋敷の影からレリーナさんが馬を連れて来る。今日はお花屋さんに行く前に孤児院に向かうのだ。お子様の足では孤児院に行ってから向かうのは大変だから、馬の登場である。お買い物が大変な時に使用人の人も使ってるって聞いたけど、バル様に黙ってお屋敷のものを勝手に使うのは抵抗がある。それを伝えたら、ロンさんに頭をなでなでされた。

 

 バル様とはまた違う感じで、葉っぱくらいの重力でそうっと撫でられたので、くすぐったかった。思わず笑ったら、ロンさんとメイドさん達が目を和ませていた。良いなでなで加減でした! 五歳児も大満足だよ。


 朝からほのぼのした空気になったところで、レリーナさんが馬を桃子の前に止めた。つぶらな瞳が桃子を見ている。ロンさんを見習うようにそうっとお腹を撫でていたら、鞍を点検していたレリーナさんが桃子を抱っこで乗せてくれる。そうして、美人な護衛さんがひらりと騎乗する。


「では行って参ります」


「行って来ます! 今日は寄り道しないで帰るよ」


「行ってらっしゃいませ。お帰りをお待ちしております」


 一礼をするロンさんを中心に、左右のメイドさん達もお辞儀をする。綺麗に揃った角度に桃子は内心唸った。ううむ。綺麗で素晴らしいね! 練習してるの? 私も混ざりたいって言ったら困らせちゃうかな?


 お手伝いでバル様のメイドさんをしたのが楽しかったから、今度またしたいなぁ。ちらっとそんなことを考えていたら、レリーナさんに呼ばれた。


「モモ様、出発いたします」


「うん、今日もよろしくね!」


「えぇ。お任せください」


 レリーナさんが手綱を軽く打ち付けると、馬が動き出した。まずは請負屋さんで教えてもらったギルが暮らす孤児院に行ってみよう!




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