99、モモ、小さな秘密を知られる~鉄壁のポーカーフェイスを誰かください!~後編
「それで? どうして請負屋に居たのかな? 五歳の身体なのに、働いたりしてないよね?」
「……は、働いて……」
「モモ?」
「働いてます」
にぃーっこり笑顔をまたしても向けられて、桃子は白状した。こあすぎるよぅ。
「やっぱりそうか。だけど、どうして? その小さな身体じゃ働くのは大変だろ? なにか欲しい物があったなら、オレ達に言ってくれればよかったのに。モモの我儘一つでスッカラカンになるような稼ぎじゃないぜ?」
叱られるのではなく、寂しそうな顔でそう言われてしまった。モモは慌てて両手を振り否定する。
「違うよ! 頼りにならないって思ったわけじゃないよ!? ただ、プレゼントを、皆にプレゼントを買いたかっただけなの!」
「えっ、プレゼント? オレ達に?」
カイが驚いたのか、気の抜けた声を出す。まさかそんなことが理由だとは思ってもいなかったらしい。確かめるようにレリーナを見る。
「えぇ。それを聞いたので私も素敵な計画に協力することにしたのです。バルクライ様はご存知ないですが、請負屋頭目の許可は得ています。今回の依頼は明日で終了ですし、危険はないかと。私は護衛として同行しておりますが、可愛らしい働きぶりを堪能させて頂きました」
うふふと桃子に微笑みを向けてくれるけど、あの、レリーナさん、堪能されちゃってるの? いつも涼しい顔で護衛として佇んでいたからわからなかったよ。最強のポーカーフェイスだね。
「…………やばい」
ぼそりと呟かれた言葉にレリーナさんに向けていた視線を戻したら、カイが俯いて口元を押さえていた。どうしたの? 気持ち悪い?
「カイ、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ。ちょっと、嬉しさで鼻血が出そうになっただけだからね」
「ご心配には及びません。シンフォル様はモモ様が愛らしすぎて興奮してしまっただけです」
「ちょっ、興奮とか言わないでくれよ。変態みたいに聞こえちゃうだろ」
「そうですか? 私は興奮しましたが?」
美人さんとイケメンさんなのに、発言が残念過ぎる。たぶんレリーナさん達が感じてるのは萌えだよね。だけど萌える要素なんてあったの? どこ?
「事情はわかったよ。モモの優しい計画もね。もしバルクライ様に怒られたらオレがフォローしてあげるよ」
「ほんと?」
「もし、だけどな。モモにプレゼントなんて貰ったら、キルマの奴、感動して泣いちゃうかもな」
「えぇー? 泣いちゃうの?」
儚い系の外見だから涙も麗しいものに見えると思うけど、バル様とのやり取りを見ていてもきびきびしているから、そんなイメージはなかったよ。優しいのは知ってるけど、どんな時も冷静に微笑んでいる姿が想像できる。
「モモは知らなかったか? あいつ、ああ見えて意外と涙もろい部分もあるんだぜ。副師団長っていう役職上、周囲に厳しく接することもあるけど、身内として認めた相手に対してはことのほか情が深いんだよ」
悲しい涙は見てる側も辛くなるけど、嬉しい涙は見ている側の心もあったかくしてくれるよね。私は見るのなら嬉しい方がいいなぁ。
「おっ持たせいたしましたー! リンガのタルトと紅茶でーす。熱い内にどーぞ」
ひゃおう! びっくりした! ハイテンションでお姉さんの声が降って来たから、心臓が飛び跳ねたよ。お姉さんは言動から見ると意外なほど慎重な手つきで、テーブルにタルトと紅茶を並べてくれた。薄く切られたリンガがキラキラしてる。薄い焦げ目があるのがより美味しそうだ。
「紅茶はお替わりもお受けしてまっす。呼ばれたらそっこーで来るんで、お気軽にどうぞ」
お盆と一緒に一礼して去っていくお姉さん。存在感が凄かった。桃子のちっこい頭にも、しっかりと刻まれたようだ。絶対に忘れない気がする。
「モモ、オレも協力するよ。二人がモモを探らないように、さりげなく注意を払っておくからね。プレゼントのことはこの三人の秘密な?」
「うん!」
「モモ様がそれでいいのなら、私も従いましょう」
秘密の共有者。内容はちっちゃいけど格好いい言葉だね。三人は頷き合って共有者の誓いの代わりに、リンガのタルトと紅茶でティータイムをすることにした。




