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『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
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第二の野営:川のほとりにて その4

 岩山を城壁の内に取り込んだ城塞都市は、想像もつかなかった巨大さだった。通行手形を渡した門番から彼を引き継いだ見習い僧に夜の大通りを導かれる間にも、田舎貴族の居城しか見たことがなかったボルドフは、尖塔を備えた多くの建物や夜空を圧して聳え立つ岩山に目を見張るばかりだった。灯りの灯る窓が少なく建物の大部分が黒い影に沈んでいることも相まって、巨大な城塞都市は奇岩島のごとき異様を呈して地底に跋扈する悪夢のごとき化け物どものここが巣窟に他ならぬことを見せつけるのだった。ともすれば頭をもたげようとする怯懦と、こんな敵と戦えばこそここで大義を見いだしうるのだとの実感が音をも立てんばかりにぶつかり合うのを覚えつつ進むうち、彼は行く手の夜空に奇妙な光のゆらめきを認めた。林立する尖塔のただ中に抜きんでて高い塔の窓から虹色の光が漏れていた。夜空の黒を背景に色合いすら定まらぬまま妖しく明滅するその光景に思わず巨漢の足が止まると、振り返った見習い僧が誇らしげに告げた。

「あれこそラーダ寺院の塔、そしてあの光こそが尊師アールダの施した結界を司る主たる宝玉の光です。あの光はこのアルデガン建立から二百年もの間輝き続け、魔物どもを洞窟に縛めているのです。行きましょう。我らの主があそこでお待ちしています」




 黒々とした寺院の門が開いたとたん闇に慣れた目をあふれ出た光が射抜き、ボルドフはまたも立ち止まった。見習い僧に促され歩み入った背後で門が閉じ、ようやく周囲の様子が見えるようになった。

 何もかもが真っ白だった。石造りの床も丸い柱も、高窓を持つ壁もすべてが白一色で、ゆらめく灯火や壁の所々に嵌め込まれた水晶玉らしきものの放つ光を最大限に活かしていた。外と内とのあまりの違いように目をしばたたかせつつ広々とした廊下を進むボルドフの前で、見習い僧は左右に白い胸当てや盾で身を固めた僧が立つ大きな扉の向こうへと呼ばわった。

「お連れしました」「通せ」

 扉の中からの声を受け、左右の僧たちが扉を開けた。

 白づくめの大広間の両脇に立つ僧たちの長衣も純白だったが、夜だからか人数は思ったほど多くなかった。だが彼らの面構えにボルドフは目を見張った。体格や容貌の違いはあれど誰の顔にも鑿の痕を留めた彫刻のごとく、重ねてきたに違いない鍛錬の跡が見て取れたから。村はもちろん軍隊でも、相対した敵たちにさえ若き巨漢はこんなものを感じさせられたことがなかった。思わず姿勢が改まり、おのずと視線が正面を向いた。とたん、その目が釘付けになった。

 正面奥に設けられた祭壇を背に立つ白い長衣の人影二つ。うち真正面の相手が纏う「気」としかいいようのないものが物理的なまでの力でボルドフの視線を鷲掴みしたのだ。白いものが混じる黒い髪や目立ち始めた皺がかえってその顔の彫りの深さを印象づけ、緑の炎のごとき目が内なる力の大きさを知らしめずにおかぬ高僧。ただ数段にすぎぬ祭壇が仰ぎ見るばかりの高さに見えた。向けられた一瞥が己の存在を全て見通しているのを覚えつつ、もはや人間の域を超越しているのではと田舎出の巨漢が思ったそのとき、威風に満ちた声が告げた。

「この身が誉れ高き責務を得たばかりのこの時に絶えて久しかった志願者を、それもそなたのような者を迎え入れるは喜ばしい。我はアルデガンの長として、ボルドフ、そなたを歓迎する」


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