第二の野営:川のほとりにて その3
「そうか。そんな夢を、な」
剛剣の師の口調ににじむ感慨にも気づけぬまま、赤毛の剣士は話し続けた。
「……覚悟はしていたつもりでした。解呪の技を得た身で西への道をゆく以上、いずれは人の世を呑み尽くすという闇の森の主に挑まねばならぬと。でも覚悟どころか、内心ではこれほど恐れていたなんて。こんなことでは……っ」
「まあそう思いつめるな。アルデガンの外に棲む化け物に初めてお目にかかるのは俺もグロスも同じだ。それにおまえはそいつが怖いというより不安なのだろう? そんな魔物にリアが出会っていないかと、違うか?」
「忘れられないんです、ラルダのことが。残忍な悪魔に堕とされ歪められてしまったあの姿が。千年もの年を経た相手にかかればリアなどひとたまりもないというのに、私はまだこんな所で」
「気持ちはわかるが焦っても仕方がないだろう。なにも闇の森に行ったと決まったわけじゃない。それにリアは利口だ。アザリアの愛弟子だからな。まだまだおまえに心配してもらわんでも困ることなどないと思うぞ」
「……それは私が頼りないということですか?」
「若いうちはそんなもんだ」
アラードがまなじりを吊り上げた程度では、ごつい澄まし顔は小揺るぎもしなかった。そこに再び浮かぶ感慨を、今度は若人も見落とさなかった。
「むろんおまえだけがそうだという気はないぞ。俺も似たようなもんだった。アルデガンをめざす道中、魔物といわれてもどんな奴と戦うことになるかと埒もなく思い巡らせていたんだからな。しかも想像できたのは牛の図体をした狼がせいぜいで、いくつも首があるだの空を飛ぶだの、そのうえ火を吐くなんてのは爺さま婆さま連中の作り話としか思っていなかった」
「ならば、さぞ驚かれたのでは」
「ああ。だが今から思えば、魔物など大したことはなかったな。アルデガンで誰と、どんな者たちと出会うのか全く考えもしないままで到着した俺のことこそ、今となっては驚くばかりだ」