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『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
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第三の野営:風渡る岐路にて その14

 赤毛の剣士は語り終えた呪文の師を長い間見つめていた。焚火の明かりに照り映える師の口元にはあの落ち着いた笑みが浮かんでいて、それは話を聴き終えたアラードの目には、いまや苦行を克服した聖者が纏う内なる光とさえ映っていた。

 そんなグロスの温厚な顔が西南へと、砂の匂いがほのかに香る微風の来る方へと向けられた。そのまなざしの柔和さを見れば、そこに映る小さな姿は若者にも視えているも同然だった。だから願わずにはいられなかった。いつか師がその幼子に再会する日がくることを。それはアラード自身が抱いていた、自分はこの地へ戻ることはないのではという予感めいたものを背景に、いっそう切実なものでさえあった。彼自身も驚くほどに。

 だからそう口にした若き剣士に、けれど白衣の神官はかぶりを振った。

「いやいや、私のあの地での役割はもう終わったのだ。イエネもいっていたとおり、私は彼らにとって招かれざる客でしかないのだから」

 そう応えつつも、その緑の瞳に宿る面影が見えんばかりのそのまなざしに、引き下がれぬ思いでアラードは続けた。

「では私もまいります。それならその子に会いに行くと約束してくれますか?」

 思いがけず強い口調に呪文の師も驚いた様子だったが、やがてその顔に嬉しそうな笑顔が広がった。

「ああ、神がお許しになるのであれば」「きっとですよ」

 そう答えつつアラードは思った。かつてアルデガンで、そしてここまでの旅路において、何度も目にしてきた師の根深い懊悩。あまりの根深さに手助け一つできぬまま、なんとかならないのかと己の無力を噛み締めるばかりだった日々。それらがこれほどの分厚さで己が心に積み重なっていたことに驚くと同時に、だからこそ信じるのだった。今こそ師は報われるのだと。神の恩寵に祝福されるのだと!


 いつしか空が白み始め、周囲も次第に明るさに包まれ始めた。焚き火の明かりが薄れても景色が翳ることはなく、赤毛の剣士は己の内なる焦りや不安までもが払われ、清められる心地だった。戻ったボルドフから夜のうちに仕掛けにかかった魚を手渡されて焼いたものを平らげると、三人はついに風渡る岐路の片方である砂漠へ続く道に別れを告げ、未知の領域へ誘う西の街道に向けて馬首を巡らせた。自分たちの表情に目を細めた剛剣の師が胸一つに秘めた危惧の念になど、夢にも気づくことができぬまま。


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