第三の野営:風渡る岐路にて その10
巨大な夕日がついに沈み始め、砂塵に煙る赤い光が迫りくる闇に浸食されつつ昏さを深め始めた。それはボルドフたちが去ってからの丸一日、ひたすらゼリアの街がある西の方角にこらされていた白衣の神官の充血した目を直撃した。網膜に焼き付く血色の光の痛みに目をしばたかせつつ、それでもグロスは視線をそらすことができなかった。
ゼリアの街までの距離を思えば、彼らがまだ戻らないのは当然だった。だが剛剣の朋を案じる白衣の神官にとって、そんなことは慰めにならなかった。彼らが去ったあとの長い夜の闇が曙光にようやく払われたとき、岩と砂ばかりのひび割れた大地の荒れた光景にグロスは怯えさえ覚えた。ボルドフが半生をかけ償おうとしてきたはずの古い罪。大地に深々と穿たれた干からびた傷跡の数々が、小柄な神官には朋の分厚い胸板に隠された苛まれた心とさえ映ったのだから、営々と積み上げてきたものを己が手で砕くことを強いられた戦士を想うとたまらなかった。枯れ果てた地をさらに痛めつける苛烈な陽光に炙られる苦悶を、グロスは振るう剛剣に己が心をずたずたに痛めつけられる朋の苦しさとして感じつつ、見えるはずもないボルドフの姿から目をそらせずにいたのだった。
延々と続いた無慈悲な陽光の責め苦がようやく終わろうとしている今、だがグロスの心にきざしたのは恐れめいた思いだった。これほど重い責め苦を受け続けた朋に、自分はなにができるのかと。他ならぬこの地でかつて起きたあの恐ろしい戦い。ドーラの村を呑み込む炎のただ中で心砕けたアルデガンの剣士たちと斬り結ぶボルドフになんの加勢もできなかったどころか、そんな自分を庇ったために背をざっくり割られたあのときの姿。赤黒い闇を背に浮かび上がったかつての光景に鷲掴みにされ、グロスは身をこわばらせたまま視線を釘付けにされていた。
その時、出し抜けに背後から上がる遠吠え。瞬時に現実へ叩き戻される刹那にも繰り返される獣の声また声。振り返るその目がからくも捉える散開しつつ疾り来る狼どもの影また影!




