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『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
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第三の野営:風渡る岐路にて その4

「アラード、そなたアーレスで聞いたであろう? アルバ老師が目にされた私の醜態を」

「醜態だなんて、そんな!」

 思わず返す若人へ首を横に振ると、グロスはしばし口を閉ざし焚き火を見ていた。再び口を開いたときも、その目は炎の彼方のなにかを見つめたままだった。

「……思えば初めてアーレスに赴いたあの日から、私は長い夢に憑かれたも同然だった。そなたも知っておるイルの村への旅路とそこでの出来事。赤子だった身には覚えていられようもなかった真相をいたずらに思いあぐね、その最悪の想像を現実が裏付けてゆくことに心乱すばかりだった」

 いわれてアラードも思い出した。僧院アーレスで初対面だった老アルバから名前もわからぬ幼い姉の形見の黒い石を手渡されたときのグロスの姿を。その幼子は身を挺して赤子だったグロスを庇い、自らは狼の牙の犠牲となったのだ。そして初めて気づけた気がした、察することができずにいた師の思いに。聞こえてきた白衣の神官の言葉もまた、それを裏切らぬものだった。

「……形見の石を手渡されたあのときはただ、幼子の尊き行いに心打たれていただけだった。けれどすぐ思ったのだ。ラルダを見捨てて逃げた私のことを、なんと恥ずべきことをしたのかと」

 まなざしが膝に置かれた拳に落ちていた。そんな師の様子には東の地での身を焼く懊悩こそ窺えなかったが、記憶に焼き付いたアルデガンでの姿が、吸血鬼の手に落ちたラルダを見殺しにした己への悔恨を烙印のごとく魂に焼き付かせていた遠い遠い姿が、赤毛の剣士の目には重なっていた。アラードは感じた。グロスの心から、あの根深かった苦悩は消え去ったわけではないのだと。むしろそれは深いところで形を変え、今なお師の存在を規定しているのだと。それは理解というより直感だった。だからまだ若い彼には推し量れなかった、その変化がいかなるものかまでは。

「そんな私をなんとかせねばとボルドフは私を旅へと連れ出してくれた。その気持ちがわかればこそ私も踏み出せたとはいうものの、実のところ最初のうちは五里霧中のありさまだった。黒髪の民の敵意に満ちたまなざしは、彼らこそが幼い姉と私を狼の跋扈する荒野に追いやったのではとの私の疑念をひたすらかき立て、かの邪法師めに向いていた怒りや憎しみが彼らに向きそうになるのを抑えるだけで精一杯だったのだ」

 瞼に光景が浮かびそうだった。そうなるのではとあのとき心配したそのとおりの話だったから。もちろん赤毛の剣士は承知していた。あえて根深い困難に直面させ、なんらかの形で克服させることこそボルドフの狙いだったのを。だがそんなボルドフにも、具体的な手だてがあったとは思えなかった。旅から戻ったときのあのごつい顔は、喜びと同じほど安堵の色もまた浮かべていたのだったから。だからアラードは言葉を待った。そのときの体験を思い起こしているとおぼしき白衣の神官を見つめつつ。


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