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『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
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第三の野営:風渡る岐路にて その3

「あの旅のことを?」

 怪訝そうに返した白衣の神官の、むしろ意表を突かれたようなその面もちに赤毛の剣士はいい淀んだが、やがて再び言葉を継いだ。

「……明日になれば私たちは分かれ道を西に進み、未踏の地へと踏み込まねばなりません。その果てには尊師にさえ討てなかったという強大な吸血鬼がいて、やがてはこの世を闇に引き込もうとしているのです。アーレスでその話を聞き、解呪の技を授かったとき確かに思ったはずでした。その化け物から人の世を守ることこそ我が使命に違いないと、それでこそアルバ師の大恩に報いることもできるのだと。なのに……」

 それ以上続けられず、視線を落としたアラードの耳に、やがてグロスの言葉が届いた。

「恐ろしい……のか?」


 顔を上げる若者のまなざしを出迎える、気遣わしげな師の瞳。それはおよそ威圧や鼓舞など、力強さに根ざすものと無縁のものとしか見えなかった。面識の浅い者の目には善良ではあっても平凡な、むしろ頼りない人物とさえ映りかねない面もちのはずだった。

 にもかかわらずその顔には、アルデガンや東の地でかいま見たあの迷いや懊悩はもはや感じられなかった。人知れず樹木の根を痛めつけていたものが取り除かれたような、そんな印象だった。だからアラードは言葉を続けた。訊ねずにはいられなかった。

「師父。アーレスで初めてあの黒い形見の石の由来をお聞きになられて以来、私も僅かながらもご様子はお側で見てきたつもりです。そしてほんの一端にすぎないそのご様子にさえ、悩みの深さは私の想像などとうてい及ぶものではないとの思いを新たにするばかりでした。

 けれど砂漠への旅から戻られたとき、私にはそれほどの悩みがもはや感じ取れなかったのです。あの旅で師父が見出されたのはどんなものだったのですか? そのお話を伺うだけでも、それは私の力になってくれるのではと思えてなりません」

「いや、違うのだアラード。なにかを見出したわけではない」

 困惑気味に手を振ると、グロスは続けた。

「ただ気づいただけなのだ。誰にも、そなたにもあるものが私の中にもあったことに」


 口を閉ざした白衣の神官は話のとば口を探る風情であったが、やがて姿勢を改めた。


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