第二の野営:川のほとりにて その14
「俺が自分の考えを話したとき、決してガラリアンやラルダには悟られぬようにとアザリアに釘を刺された。ローラムやダンカンも同じ結論に達していることも知らされた。それからアザリアが知りえたガラリアンの身の上についてもな。とはいえ中身はないに等しかった。奴がずば抜けた魔力ゆえ少年の頃に西部地方から送られてきたことと、当時すでに同じ傲岸不遜な態度だったことくらいだった。そんなあいつに当時から接する機会あればこそ、周囲からまともな扱いをされなかったばかりに力を頼むことしかできなくなったのではとも思えたのだといっていた」
ボルドフの言葉を耳にしながら、アラードはついに出会うことのなかったガラリアンという魔術師に、あの天空さえも呑まんとするほど巨大な火の玉の背後にいた一人の男の人となりに初めて想いを馳せていた。
「ラルダに知られればどうなるかは目に見えていた。いや、見えやすかったといったほうがいいかもしれん。なにせ蛇蝎のごとく嫌う相手なのだからパーティに留まることなどできないだろう。しかしそれではラルダにとって神に託された聖なる務めの放棄となるばかりか、父たるゴルツ閣下の期待の裏切りともなることを避けられん。それだけは回避せねばと誰もが容易に理解できた。問題はガラリアンのほうだった」
師の話から伝わる若き尼僧の気性の激しさが、かつて目にした無惨に堕ちた恐ろしい姿と交錯し一つの姿を浮かび上がらせた。凛然とした気高い、けれど硬質な脆さも秘めた姿だった。狷介な魔術師が魅せられたのも当然と思える美しさだった。アラードはそんな彼女をあれほど歪め堕としたあの吸血鬼の罪深さに、今更ながら戦慄を禁じ得なかった。
「ラルダはすでにローラムと恋仲だったが、ガラリアンには気にしている様子がなかった。魔術の使えぬ戦士など眼中になかったせいもあっただろうが、やはりアザリアの見立てどおり、自分の気持ちに気づけていないのが大きいと思うしかなかった。だからこそ奴がもし気づけばなにが起こるか、誰も予測できなかった。結局のところ、それまでどおりに振る舞い続ける以外に選択肢はなかったんだ。いつ割れるかわからん氷の上で」
「そしてついに、その日がきてしまったのですね……」
老いのきざしが見え始めている大きな顔が頷いた。
「俺はその場に居合わせなかったが、なにが起きたかは想像もつく。ラルダがいなくなって初めて、ガラリアンは自分の気持ちに気づいたんだろう。それが奴をして、単身で救出に向かうという暴挙へと駆り立てたんだとな。むろんアザリアにも想像できた。だからこそ誰よりも早くガラリアンを追うことができた。結果は最悪だったがな」
「愚かとも哀れともつかない話ですね」
「ああ、確かにな……」
言葉が途切れるのと入れ替わるように、せせらぎの音が戻ってきた。己が耳にしえなかった遠い声を耳にする心地で川の語りを聞くともなしに聞いているうち、悪夢の爪痕も癒えた神経を微睡みがそっと包み始めた。いつしか横になった赤毛の若者は呟きが一つ、その声たちの中に紛れるのを耳にしたように思った。
とはいえ、人のことはいえんが……。
閉じゆく瞼のその裏に、導きの白星を見上げる巨漢の姿がほの見えた。だがそれが今のことか、それともいつか見たときの師の残像にすぎないのかすら、眠りに沈みゆく意識にはもはや判ずることさえかなわなかった。




