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『白星の魔女』 ~アルデガン外伝8~  作者: ふしじろ もひと
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第二の野営:川のほとりにて その11

「留め置く? なぜ? なぜなのですかお父様!」

 信じられぬ思いでラルダは叫んだ。窓の外を向くアルデガンの長たる父の背に。

「あの男はラーダの教えを守らず、術式に織り込まれた禁忌すら邪魔だといって勝手に術を編み直しているではありませんか! そんな男をなぜ!」

「僧侶としての立場だけならそれもよい。だが、アルデガンの長ともなればそれではすまぬ」

 窓際に立つ背には微塵の揺らぎもなかった。

「そなたも知らぬ身ではあるまい。昨今のアルデガンが限られた逸材を除き、魔物どもに対峙しうる力となりえずにいる状況を。この現状でガラリアンの力をあえて手放すは、この手に託された聖なる務めに背く行為にほかならぬ」

「だからといって尊い教えを顧みないあんな男を留め置くは神をないがしろにするも同然ではありませんか! 魔物どもを討つは志ある者のみが担うことを許される聖なる責務。あのような者の手に委ねてよいものではないはずです!」


 するとゴルツが向き直った。

「ラルダよ。そなた、洞窟の魔物の討伐のみが我らの責務としか見えておらぬか?」

 静かな声だった。だがその厳しさに、若き尼僧は絶句した。

「ならば考えてみよ。ガラリアンから目的を奪いアルデガンから放逐すれば、いかなる事態を招くかを。ラーダの戒律は従わないというだけでは死に値する罪と認めてはおらぬ。ならば舌を抜き腕を落とそうと、それはあやつがかくも練り上げた術式の流出を意味するのだぞ。そなたの申す禁忌の歯止めを外した魔道同然の強大な術を。それがこの地に育った魔物を放逐する以上の害悪となりうることが、そなたには見えぬと申すか!」

 唇を噛みつつも、ラルダは下を向くことしかできなかった。そんな自分に向けられたまなざしが、けれどふとやわらいだような気がした。


「……とはいえガラリアンをこの城塞に留め置けるは、あやつの狷介さ、そしてそれゆえそなたをはじめ周囲の者どもがあやつに同調せねばこそ。もしもあやつに同調する者が出る事態になっておれば、わしは戒律を曲げてでもあやつを処断せねばならなかったであろう」

 顔面から血の気が引くのがわかった。黒髪の尼僧は信じられぬ思いで父たる大司教を仰ぎ見た。

「戒律を曲げる……神のご意志に背いてでも。そうおっしゃるのですかお父様」

「必要とあらば。ラルダよ、それがアルデガンの長であるということなのだ」

 見つめられていた瞬間が、永遠のこととさえ思えた。

「ガラリアンは申しておった。自身の手で魔物どもの掃討を完遂し、アルデガン史上最高にして最後の術者となることこそ宿願であるとな。誰の手も借りずなにものにも頼らず、己自身が得心のゆく形でそれを成し遂げる決意とな。あなたをも超える、超えてみせるとまでいいおった。まこと傲岸不遜の極みよ」

「わ、笑い事ではありませぬ! あんな男がなんと無礼なっ」

 口元からは笑みが消えたが、向けられたまなざしのやわらぎが薄れることはなかった。

「その一途な信仰はまこと尊い。それあらばこそ、そなたはその若さで僧侶としての修行を登り詰めんとしておる。だが」

 声がわずかに深みを増した。それは余人では聞き取れぬ、ラルダだからこそわかるものだった。

「我らは神の御元に住もうてはおらぬ。魔物どもと対峙しておる状況一つ見ても、神の威光がこの地をあまねく照らしておるのでないのは明らか。ならば我らはなにをなすべきか。思わぬか我が娘よ、神は我らを試しておわすのではないかと」


 納得できたわけではなかった、ガラリアンのことに関しては。それでもめったに見せぬ厳父の思いに、ラルダは目頭が熱くなるのを抑えられなかった。千々に乱れる思いのまま、声を殺し涙にむせぶ娘の耳に、さらなる言葉が、思いが届く。

「今はわからぬやもしれぬ。だがそれがわかったとき、そなたは司教としての道にも進めよう。神の威光と人の現実、その双方を知り高き迷いの峠を越えてはじめて見えるものもあるのだ。そのときそなたは僧侶の奇跡と魔術師の技を極め、かの奥義を、真に吸血鬼を浄化しうる解呪の技をも修得できよう。洞窟にかの難物の影かいま見えるに至りし今、そなたへの期待は大きいと知るがよい。待っておるぞ! 盲信に陥ることなく道を究めしその日がくるのを」


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