第二の野営:川のほとりにて その7
「なん……だって」
驚愕のあまり言葉も見つからぬボルドフに、炎の魔術師はいいつのった。
「あんたロブコヴィッツ候とやらの部隊だったろう? そいつが攻めた相手がこともあろうにアルデガンの結界を補助する西の塔に逃げ込んで、使えもしないくせに宝玉に手を出したのさ。異変を悟った大司教閣下の依頼でノールドが密偵を放ったおかげで、俺たちは歩きのあんたが来るより早く知らせを受けたというわけだ。たいした運だぜ本当によ。せいぜいあやからせてほしいもんだな」
「やめなさいよガラリアン! 不謹慎だわ」
険のある女の声が受け入れ難い話に割り込んだ。白いローブに革の防具の凛とした娘が豊かな黒髪をかきあげつつ炎の魔術師を睨んでいた。予想さえしなかった話に動転していたにもかかわらず、緑の炎のごときその瞳にボルドフはなぜか見覚えがあると感じた。だがそんな厳しいまなざしにも全く動じる様子も見せず、ガラリアンと呼ばれた魔術師はなおも嘲笑まじりに続けた。
「そんなわけないだろラルダ。こいつは軍に嫌気が差したんだ。ろくな思い出なんかあるはずないさ。そんな連中がどうなろうがこいつが気になどするもんか」
村に帰せなかったアンディの顔が、金を渡したあのときの泣いて感謝する顔が浮かんだとたん、衝動が拳へと突き上げた。だがほっそりした手がそれを掴んだ。そして隣で声がいった。別の、より柔らかな女の声が。
「ガラリアン、もう少し人を見る目を養なったら?」
上背のある女だった。亜麻色の髪が肩の上で豊かにうねる純白のローブ姿が輝くようだった。殴りかかろうとした拳を戒められたせいか、ボルドフには彼女がなにやら守護神めいて見えた。
「そんなに単純じゃないことくらい様子を見てわからないの? 仲間に注意を払うのも私たち魔術師の務めのはずよ」
「ハッ、他人のお守りなんか俺が知るか。そんなの気が利かせられるって奴がやりゃいいだろ。頼りにしてるぜアザリアどの」
鐘楼の鐘がその言葉に被さった。
「おっと時間だ。あばよ」炎の術者は肩をそびやかして去った。その場にえもいわれぬ気まずさを残して。
「……悪いな。あれでも腕だけはたつんだ」とりなすローラムの背後で、ルシードが無言で踵を返した。
「達人なのよ。敵を倒すのも、作るのも!」
いい捨てるラルダをなだめていたアザリアが、ふと思いついた風情で手を叩いた。
「気分直しにこの顔ぶれで夕食というのはどう? 私たちも外の世界の話を聞く機会はめったにないわけだし」
「それがいい! ガラリアンやルシードはどうせ呼んでも来ないんだ。珍しい話を台無しにせずにすむ」
「決まりね。じゃあ夕方に。楽しみにしているわ」
ローラムたち三人もそれぞれ手を振り去っていった。見送るボルドフにダンカンがいった。
「妙な具合になっちまったが、とにかく始めるとするか。まずは踏み込みだ。俺があのバカ野郎のつもりでかかってきな!」
砕けた盾を捨て木刀を構えたダンカンに、ボルドフは雄叫びをあげぶつかっていった。




